第3章 さん
降谷君の事情と、自分の生活を見直した時、まぁポアロの件は仕方ないとして。
「後追いしてないんだから、いいじゃん」
なんて、そう思ったのは三日前。
今日は初めてのポアロの出勤日。
降谷君、もとい
安室さんが車で迎えに来てくれる手筈になっている。
私が逃げないように。
ピンポーンと急かすようになったチャイムに、
「おはようございます、さん」
ドアを開ける。
「おはようございます、安室さん。今日からよろしくお願いします」
久しぶりにきちんとした服を着る。
喫茶店の店員なら、清潔感も大事だと思って。
多分、白のシャツと、かろうじてわかる黒のパンツにカーディガンを羽織って。
「お似合いですね、さん」
「安室さんも、」
そう言ってしめた鍵をポケットに入れて、家の横につけられた高級車に乗る。
「昨日はよく寝れました?」
「安室さんこそ」
「ええ、睡眠は大事ですから」
「そうですか」
特にたいした会話もなく、数十分でついたこの間の駐車場。
「そういえば、この間面接って言ってましたけど、梓さんが店長さんなの?」
「違いますよ、ただ、余りポアロに顔を出さないんですよ。面接って言ったけど、梓さんと顔合わせしてもらいたかっただけですから」
あぁ、慣れないな。
「そうですか、」
物腰が柔らかく、
お客さんがリピートしちゃうくらい美味しいハムサンドをつくって、
まるで、…まるで、ヒロみたいだ。
ヒロを忘れようとするのに、鮮明になってく。
…安室さんのせいだ。
「さん、これ3番さんに」
「はい、」
手渡された食器を、運ぶ。
「お待たせいたしました、珈琲とモーニングセットです」
「ありがとうございます」
あぁ、やだな。
帰りたい。
「さん、おはようっ」
「コナン君?!」
「おい、坊主走るなって………って、ポアロに美人が増えてる?!」
タバコの匂いがする男性と共に、入ってきたのはこの間の少年。
「今日からって聞いたから来たよ!」
そう、コナン君が無邪気に笑うから、釣られて笑う。
「そっか。えっと、」
「毛利さん、おはようございます」
助け舟を出すように、話しかけたのは安室さん。