第1章 いち
納得いかないような表情の彼を前に、私は珈琲を出した。
「ありがとう」
「ヒロの最後はさ、萩原くん聞いたの?」
「あ、いや…」
「そっか、萩原くんも知らないなら降谷君に聞くからいいんだけど、」
お気に入りのコップはヒロが誕生日にくれたものだった。
ふーっふーっと息を吹きかけて冷ます。
「寒いよね、寒いのに萩原君汗かいてさ、風邪ひかないようにしてね」
「…」
「ちょっと、何かいいなよ」
「…」
「萩原くんって、彼女いるんだっけ」
「…」
「この際だからさ、」
言いかけたところで手首を掴まれた。
「あはは、…ごめん、やだよね。おーけー、おーけー、知ってる。だからヒロもさ、この関係に名前をつけなかったんだよ。
だから今、平気でいられるのかもしれないけど」
「ちゃん、」
「ほんと、なんでかなぁ。降谷君にこの話聞いた時からさ、涙一滴もでないんだよ。まだ実感湧いてないのかな」
ーピンポーン、ピンポン、ピンポン、ドンドンドン
「誰かな、松田君かな。出てくるね」
「…」
乱暴に叩かれたドアを開けると、案の定萩原君の相棒が立ってた。
肩を掴まれる。
こんなとこまで似るんだ、一緒にいると。
私はあったかな、ヒロと似てる癖。
「大丈夫かよ?」
「松田君もありがとうね、萩原君もきてくれてさ。珈琲のむよね?」
「ん。…邪魔する」
すんなり入るとこはさすが、ブレーキないだけあるななんて。いつかのヒロの言葉を思い出す。
「うん、入って入って」
萩原君の隣にどかっと座った松田君を見て、なんとなくいつも通りに接してくれてるような気がする。
「なんだよ萩、通夜みてぇな…っと、わりぃ」
「気にしないでよ。大体ヒロなんてさ、たまーにしかこの家来たことなかったしさ、全寮制?の警察学校行ってた時の方がまだ、会えてたよ」
「ま、たしかにな」
「でしょー。だから、生きてても会えないんだから、かわらないよ」
「でもさ、ちゃん、」
「まぁそう言うわけだから、萩原君も気にしないで」
そう言って松田君の前に珈琲カップを置く。
「さんきゅ、…あぁ、ゼロのやつもここに来るってさ。夜中になるみてぇだけど」
「みんな本当優しいね、」
「まぁ、仲間の女だし」
「その前にダチだろ、俺ら」