第1章 いち
「ごめん、」
フワッと降谷君の匂いに包まれて、抱きしめられたことに気づく。
こんなことになんの意味があるの?
「ヒロの代わりにはなれなくても、俺がずっとそばに居るから」
「うそつき、降谷君だって忙しいでしょ」
「それでも、」
「ねぇ、降谷君。降谷君、やっぱり上司の人に怒られてよ。携帯は要らないから、この弾私にちょうだい?無くさないから、絶対無くさないから」
「…わかった」
片方の手で私を抱きしめたまま、横から手が伸びて私の掌の上に置かれた小さな弾。
「ごめんね、降谷君」
「いいんだ、これくらい」
ヒロのことみてたから、この証拠が一つないだけで本当はどのくらい困るかわかってるのに。
ヒロの血がこびりついたこの弾が、私が触らなかったヒロの央に入って、ヒロを攫ってしまった。
憎くて憎くてくやしいのに、少しだけ残った血ですら愛おしくて、もう失くしたくない、私の手元に置いておきたい。
ヒロが生きていた印に。
そう思ったら、降谷君を困らせるのがわかっていながら、望まずにはいられなかった。
「人って儚いね」
「…」
「こんなに小さいのに、一瞬で私からヒロを奪うんだから」
そう言った私に、降谷君は抱きしめる腕を強めた。
この腕がもしヒロのだったら…、
どれだけよかったんだろう。
「降谷君、今日よかったら泊まっていって。
着替えはヒロの使っていいから」
「…わかった」
1人になりたくないのは、お互い様でしょ?
「夕飯は?」
「まだ。食欲なくてさ」
「煮物でよかったら、…」
言いかけて、失敗していたことを思い出す。
「うん、」
「失敗したものでよければ」
「はは、もらう」
味を治そうとすると、そのままでいいと言われ、温めるのくらい自分でやると言った降谷君に、それならとお風呂を用意しに行く私。
「…うまいよ、」
戻ると、降谷君が私に視線をうつす。
「そんなことないよ、ほんとに今回のは」
「ヒロ作ったのに似てる」
「ヒロの料理はもっと美味しいから、ありがと、フォローしてくれて」
納得いかないような降谷君に、クスッと笑う。
「もう少ししたらお風呂も溜まるからね」
「うん」
こう言うことヒロとは何回したっけかな…。