第1章 いち
「すまない。食事中だったのか?」
「あ、ううん。失敗しちゃって。残して、しまうの忘れてた。すぐ片付けるから、」
「手伝うよ」
「ありがとう」
シンクに運ばれた食器。
私の手によってつくられて、私にボトボトと生ゴミに捨てられる可哀想な食べ物達。
「もったいないよね、」
「…」
降谷君は何も言わない。
「珈琲お待たせ」
自分のカップにも注いだ珈琲をそぅっと、降谷君の前と私の座る席のテーブルに置く。
「忙しいところ来てくれてありがとうね、みんなも帰っちゃったけど来てくれたんだ。
松田君がね、ゼロによろしくって。次会った時覚悟しとけって伝えてってさ」
「」
「降谷君、クマすごくない?寝れてないの?大丈夫?」
「!!…、」
「大丈夫だよ、だから、ちゃんと教えて」
降谷君が泣くのを初めて見た。
『ゼロは意外と泣き虫だから』
ヒロの声が思い出される。
「…っ、ごめん、」
「ごめんじゃわかんないよ、」
握られた手のひらがそっと開かれ、置かれた弾丸。
コトッとポケットから出された、丸く穴が空いた携帯電話。
「…」
「ヒロのだ、この携帯」
能天気にそんなこと言って。
「わかんないな」
やっぱり、思考が追いつかない。
「触ってもいいの?」
コクッとうなづいた降谷君。
「じゃあ、遠慮なく」
穴が空いて、変形したせいで開きにくくなった携帯。
「…」
ヒロはよく、左の胸ポケットに携帯を入れていた。
弾丸には、少しだけ赤褐色のシミがついてる。
「撃たれたの?」
「いや、あいつ自身が」
「自分でってことか、‥なら尚更、降谷君が謝る必要なんてないよ。
これ、ここまで持ってくるの大変だったでしょ、上司の人に怒られたんじゃない?」
「それはいいんだ、どうにでもできる」
「そう、」
パタンと閉じた携帯を、テーブルに置く。
「どこまでだったら教えてくれるの?」
「………言えない」
「…じゃあ、これはどうして?」
「君が、納得しないと思ったから」
「…納得、しなきゃいけない?…降谷君ってば意地悪だね。
あんな電話寄越して、こんなの持ってきてさ。
信じるしかなくなるじゃん。ヒロがいないって」
こんなの八つ当たりだ。