第2章 第七師団
その後の記憶は朧げにしか残っていない。
ふらつく足取りながらなんとか自分が寝ていたベッドまで辿り着いたものの、勢いよく倒れ込んだ後はただ呆然と天井の汚れを眺めていたような気がする。
本当にここは北海道の小樽で、本当にこの時代は私が生きていた時代ではないのだろうか?
どうして。なんで。何が起こっているのか。
どんなに自問自答を繰り返そうが、答えなんて出るはずがなかった。
次第に瞼が重くなって、意識を手放す瞬間。
「ああ、そうだ。俺の意識が戻っていることも会話が出来ることも、しばらくは黙っていろ」
そんな声が聞こえた気がした。
「ん・・・」
日差しの眩しさに目を開ける。よほど疲れていたのか、夢を見ることもなくぐっすりと眠ることが出来た。
すっきりとした寝覚めで実に気持ちがいい。
今日はいいことがあるかも、なんて浮かれながら起き上がり伸びをひとつ。顔を上げた瞬間目の前に広がる光景に愕然とした。
そこは自分の部屋ではなく、ベッドが並べられた病院の大部屋だった。
ふたつ隣で眠る猫の人曰く、明治時代の小樽だそうな。
「夢じゃなかった・・・」
とはいえ、落ち込んでいるだけではなんの解決にもならない。
こういうとき、ポジティブな性格で良かったとつくづく思う。
ポジティブというよりも、無謀と言った方がいいかもしれないが。
彼の言う通り、ここが本当に明治の北海道だとして、2023年の東京に帰る術がないわけではないはずだ。
2023年の東京から明治時代に来てしまった人間がここにいるのだから。
その反対の現象も、十分に起こりうるのではないだろうか。
問題は、その現象が起こったきっかけ。原因。それがなんなのか。
「・・・うん、まったくわからん」
完全にお手上げだった。
コンコン、とノックの音が部屋に響いた。
程なくして病室の扉が開き、男の人が2人入って来た。
軍服に身を包んだその佇まいは、それがコスプレの類ではないことを嫌でも思い知らせてくる。
立っているだけなのに、ものすごい迫力に威圧感。
これが本物の軍人さん。
もちろん2023年の日本には存在などしていない。
彼の言葉がどんどん信憑性を増していく。
「これはこれは。眠り姫がお目覚めだ。気分はどうかな?お嬢さん」
軍人さんの1人、額当てのようなものをした男性が笑って言った。
