第2章 第七師団
その人の声には聞き覚えがあった。よく通る渋い声。
そう、昨日の神様(私の勘違い)だ。
じゃあ隣の仏頂面の人が見習い神様(こっちも以下略)かな。
「この度は助けてくださりありがとうございました。皆様は命の恩人です」
深々と頭を下げて感謝を告げた。
この人たちがあの時、死にかけた私を見つけてくれなかったらどうなっていたことか。考えただけでゾッとする。
「何かお礼が出来ればいいのですが、生憎なにも持ち合わせがなくて・・・」
財布の中にお金はある。貯金も人並みにはある、と思う。
だけど、重症患者さんの言うことを信じるのならば、私が今持っているお金にはここではなんの価値もないだろう。
もちろんATMなんてものもないので、キャッシュカードもただのプラスチックの板だ。
「いやいや、そんなことは気にしなくてもいい。それよりその格好では寒いだろう。着物を用意させたから着替えてくるといい」
「月島軍曹」と額当てのおじ様がそう呼ぶと、仏頂面の人がどこからともなくさっと着物を取り出した。仏頂面の人は月島軍曹と言うらしい。
にこにこにこと、笑顔の額当ての人。
そうか・・・。明治時代は洋装が普及し始めたとはいえ、庶民はまだまだ着物文化が中心。一般人の私に用意されるものは着物だよなぁ。
だがしかし!着付けなんてしたこともない現代の若者である私は、当然ながら一人で着物を着ることが出来ないのです!
着物を見つめたまま固まってしまう。「着物を着られない」と言ったらやはり怪しまれるだろうか・・・。
「ありがとうございます。でも私、一人で着物を着られないので、折角のご好意ですが遠慮しておきます」
でも着物に着替えないうまい言い訳が思いつかず、素直に事情を伝えてお断りした。
どこかのスパイも、ウソをつくときは真実も織り交ぜつつ時に大胆に、と言っていた気がする。
「そうか、それは残念だ」
多少しょんぼりとした様子だが、特に怪しむ様子のないおじ様。
あれ?案外チョロい?
ホッとしたのも束の間、俯いた顔を上げたおじ様の表情は、実に生き生きとした満面の笑顔だった。
「・・・確かに、今も随分と変わった洋服を着ているようだ。それは外国製かな?よければどこで手に入れたのかお伺いしたい。出来れば手に取って見せてもらいたいのだが、いいかな?」
この人、神様だと思ったら死神でした。
