第3章 逃走
草木も眠る丑三つ時。
焚き火も街灯も何もない真っ暗な北海道の森の中。
私と尾形さんが暖をとる外套の下では、今まさに熾烈な攻防戦が繰り広げられていた。
「だから触らないでくださいって!」
「嫌なら一人で寝るんだな。わかってると思うがくしゃみはするなよ」
「寒いからイヤです!」
そう言い合っている間も、尾形さんの両手はずっと胸に添えられている。
お互いの主張が合致しないため、しばらくこの不毛なやり取りが続いていた。
「明日は早くから谷垣を探さなきゃならん。いいから寝ろ」
いやだから、胸を触られてたら寝られないって言ってるんじゃないですか。なんでわかんないかな、この人は。
さも私が悪いみたいな言い方しないでくださいよ。
不満げな顔で睨みつけると、尾形さんは「ああ…」と呟きなにか納得したような顔で頷いた。
そしていつものこちらを心底不愉快にさせる笑顔を浮かべて言い放った。
「興奮して寝られんか」
その言葉を言うのとほぼ同時に反論するスキも与えず、尾形さんの両手に力が込められた。
突然胸をぎゅっと掴まれ、思わず喘ぎにも似た声が漏れる。
「ひぁ…っ!」
尾形さんの手はそのまま無防備な胸を揉み続けた。
「おがたさ…あっ!やめ…んんっ、やめ、てぇ…っ」
ダメだ、このままでは変な気分になってしまいそうだ。
とにかくこの行為をやめてもらわないとと制止する声を上げるも、やはり喘ぎ声が混ざってしまう。は、恥ずかしい…。
「そんな顔しておいて、本当にやめて欲しいのか?」
だから、私は一体どんな顔をしているというんですか?
宇佐美上等兵といい尾形さんといい、顔じゃなくて言葉で判断して欲しい。
というか、やめて欲しいに決まってるじゃないですか!
思いっきり外ですし、それにさっきから二階堂さんにめちゃくちゃ見られてます。
途切れ途切れながらもそう訴えると、ピタリと手を止めた尾形さんがそばで丸まっている二階堂さんへ視線を向けた。
「忘れてた」
一連の成り行きをずっと見守っていた二階堂さんが溜息をついた。
「だからそこ、イチャついてないでいい加減寝ろ」
お願いだからもっと早く止めてください、二階堂さん。