第2章 第七師団
「これはなんだ?」「これは?」と次々と画面を指差しアプリの説明を求められる。めちゃくちゃ興味津々だな。
「これはなんの数字だ?」
そう言って彼が指差したのはカレンダーアプリ。アイコンをタッチするとぱっと今年一年分のカレンダーが表示された。
今日の日付が赤い丸で囲まれている。
「これはカレンダーですよ。ほら、赤くなってるところが今日です」
「2023・・・」
「え!!??」
表示されていた日付に気付いてついつい大きな声が出てしまった。
またもやビクッと肩を揺らす重症患者さん。目も完全に猫のそれになっている。
「あ、いきなり大声出してすいません・・・」
猫の人に再び謝罪をしてからスマホの画面に視線を向ける。
赤く表記されている数字は、私の誕生日その日だった。
よくよく見ると、時刻も突然雪山へと瞬間移動した時間ほぼそのままになっている。
「え、うそ、壊れちゃった?」
しばらく見つめていても、時計が次の数字を刻むことはなかった。
「うわー、ショック・・・」
まだ買ってから数ヶ月しか経ってないんだけどなぁ。修理に出すか。
修理に出すにしても、この人の反応からみてこの近くにショップがあるとは考えにくい。修理にどれくらいかかるかも不明だ。
やはり早めに家に帰らなければ。
とりあえず、まず私に必要な情報は現在地と正確な日時だ。
「あの・・・つかぬことをお伺いしますが、ここってなんて街ですか?」
猫の人は私をじっと見上げたまま、「小樽だ」と教えてくれた。
は???おたる???
「小樽って・・・北海道の小樽ですか?」
「他に小樽があるか?」
いえ、私も他に小樽は存じ上げませんが。
え・・・?私東京にいたんですけど。
小樽ってなに?北海道ってなに⁉︎
混乱する頭を抱えながら、もうひとつの質問を投げかけた。
「じゃあ、今日って何日ですか?私どれくらい眠っていたんでしょうか・・・」
ニヤリ、と、彼が笑った気がした。
実際は、真新しい顎の手術痕に腫れた顔、包帯をこれでもかと巻かれ声を出すのもやっとと見受けられる彼が、口角を上げて笑うことはないのだけれど。
私にはそう見えた。
「今は1907年だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
思いっきり間を開けて、やっと絞り出した言葉がそれだった。