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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


自分から呼びつけておいて、その重症の人は私の顔をじっと見つめたまま何も話さなかった。
ただ黙っているだけではない。まるで値踏みでもしているかのように、彼の瞳が上下に動いているのがわかった。

「・・・それはなんだ」

私の右手に視線を向けながら彼が言う。

右手の中にあるのは、スマホだった。

「えと・・・スマホですけど」

「すまほ・・・?」

「はい、スマートフォン」

挨拶も自己紹介もすることなく、淡々と会話が進んでいく。
頬の縫合痕が痛むのか時折顔を歪めていたが、その間も男の人の視線はスマホに釘付けだった。

「え?スマホ知らないですか?」

電波の入らない地域であればスマホを持っていない人も多いだろう。
でも、テレビのCMやドラマ、ニュースなんかを見ていれば、存在くらいは知っているだろうに。

顔に巻かれた包帯と痛々しい傷跡のせいで正確な年齢は測りかねるが、いってせいぜい30代。最新技術に興味のないお年寄りには到底見えないけど。

この人のリアクションは、【初めて見た】というよりは【初めて聞いた】という感じだ。

「えーと・・・ディスプレイ見てみますか?」

「でぃすぷれい・・・」

いちいち反応がおじいちゃんなんだけど。

「圏外だからアプリはほとんど立ち上がらないですけど、ホーム画面なら・・・」

私がブツブツと呟きスマホを指で操作すると途端に明るく光る画面に、彼がびくりと肩を揺らした。
まるで猫みたいだ。

「これですけど・・・」

人のスマホのホーム画面なんて、普通の人なら見たところで大して面白くないだろう。ああ、このアプリ使ってるんだね、私もだよ、その程度の会話には発展するかもしれないけれど。

でも今回はスマホもアプリも知らないという人だ。どんな反応をするのか全くの未知数。
・・・ちょっと楽しみかも。

「・・・・・・」

画面を凝視したまま動かない男性。
えと、大丈夫ですか?瞳孔開いてません?

「・・・その猫はなんだ?」

「猫?」

ようやく言葉を発したかと思ったら猫?猫のアプリなんか入れてたかな・・・。

確認しようと画面に目を移すと、確かにそこには猫がいた。
規則正しく並ぶアプリのボタンのその向こう。
ホーム画面の壁紙に設定していた、りんご5つ分の身長の赤いリボンを付けた猫が。
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