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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


「ト、ツグ…?」

予想もしていなかった単語の登場に思わずカタコトになってしまった。隣に座る月島軍曹がブッと噴き出した。どうやら軍曹は私のおかしな日本語がツボらしい。

トツグ。とつぐ。嫁ぐ。

呆然としながらも、必死で鶴見中尉の発した言葉の意味を理解しようと試みる。全然働かない頭に鞭を打ってとにかく考えた。

嫁ぐって、嫁に行くってことだよね。
鯉登家に嫁ぐってことは、鯉登家の人の嫁になるってことで。

そこまで考えてようやく理解が追いついた。
反射的に鯉登少尉に目を向けると、めちゃくちゃ満面の笑みでこちらを見つめている。

それってつまり、鯉登少尉と結婚しないかってこと…!?

「あ、あの…っ、私…」

言いかけたけど止まってしまった。
こういうときって、なんて断ったらいいんだ…?

しばらく逡巡して、「私では鯉登少尉には釣り合わないと思います」と謙虚な姿勢でお断り申し上げた。

鯉登少尉は顔がいい。それに背も高くてすらっとしている。
外見だけでも相当モテるのではないだろうか。
しかもこの若さで少尉ということは、間違いなくエリート。
持ち物や仕草から家柄がいいことも伺える。
そういえば尾形さんも鯉登少尉のこと『ボンボン』って言ってたもんなぁ。

それに対して私はと言ったら。

顔並、身長平均、家柄普通のどこに出しても一般的と言われるような庶民オブ庶民。
さらに今は記憶喪失という最悪な曰く付き物件だ。
とてもじゃないが誰が考えたって分不相応というものだ。
至って正当なお断り理由だろう。

しかし、記憶喪失の私をなぜか良家のお嬢様だと思っている3人には通用しなかった。

「なにを言う。かおりであれば容姿も器量も家柄も申し分ない。父上と母上も気に入ってくださるだろう」

自信満々にそう言って笑う鯉登少尉。
いやだから、記憶のない私の家柄なんてどうしてわかるんですか。というか。

「音之進さんは私なんかが相手でいいんですか?」

率直に思ったことを口に出したら、鯉登少尉はキラキラだった笑顔から少しムッとした表情に変わった。

「もちろんだ!私の方からかおりがいいと、鶴見中尉殿に申し出たのだからな」

マジですか…。

私が言うのもなんですが、鯉登少尉、あなたちょっとチョロすぎますよ。
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