第2章 第七師団
教えられた場所へ向かうと、立派な日本家屋があった。
政治家が使っていそうな、これぞザ・料亭と言わんばかりの佇まい。
め、めちゃくちゃ高そう…。
その外観にすでに圧倒され動けずにいると、仲居さんが部屋まで案内してくれた。
廊下から見える日本庭園も圧巻で、ますます肩身の狭い思いをする一般庶民なのでした。
「こちらです」と仲居さんが一番奥の部屋に向かって言った。
襖に手をかけ「失礼致します」と綺麗な仕草で開ける仲居さん。
いや、ちょっと待って!まだ心の準備が…!
そう叫びそうになるのをグッと堪えて、もうどうにでもなれと覚悟を決めて部屋の中へと視線を向けた。
10畳ほどの和室には、すでに鶴見中尉の姿があった。
座卓の前に座り、笑顔でこちらを見ている。
「やあ、かおりくん。待っていたよ」
軽く右手を上げる鶴見中尉の隣には鯉登少尉。目の前には月島軍曹が座っていた。
2人の姿が目に入って、ふっと肩に入っていた力が抜けていくのを感じた。
な、なんだ、中尉と2人きりじゃなかったのか…。よかったぁ。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
そう言って空いている席、月島軍曹の隣で鯉登少尉の目の前に腰を下ろす。
鶴見中尉の真正面じゃないのもありがたい!
「よく似合っているな。さすが鶴見中尉殿が選んだ服だ!」
私を褒めているのか鶴見中尉を褒めているのかよくわからないが、とりあえず「ありがとうございます」と鯉登少尉にお礼を言っておく。
その後しばらくは運ばれてくる料理をいただきながら、他愛のない会話が続いた。
「師団の生活には慣れたか」
「困っていることはないか」
「体調はどうか」
などなど、私のことをとても気遣ってくれているのがわかった。
「衛生隊の方はどうかね?」
「はい、皆さん優しく教えて下さって、とても勉強になっています」
先日志願した医学の勉強に関しても、衛生隊の方たちに色々と教えてもらい、ケガの治療や簡単な応急処置などは出来るようになっていた。
「そうか、それはよかった」
にこやかに話す鶴見中尉の姿に、完全に気を緩めてしまっていた。
この話の流れで、突然ブッ込んでくるなんて。
「本当にかおりくんは優秀だな。明治の女性とは思えないほど教養がある」