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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


綾崎かおり、またまた絶賛大ピンチです。


目の前には宇佐美上等兵。
背中に迫るのは部屋の壁。
私の顔を挟むように、宇佐美上等兵の両手が壁に押し付けられている。

所謂世間一般で言うところの壁ドンの体勢だ。

「やあっと捕まえた」

にんまりと口角を上げる宇佐美上等兵に見つめられ、私の額からはだらだらと汗が流れ落ちていく。

「よくもこの僕から散々逃げ回ってくれたよね」

そう、あの医務室での一件以来、私は宇佐美上等兵のことをとことん避けていた。当然だろう。
2人きりになるなんて以ての外。宇佐美上等兵の姿が見えれば一目散に隠れ、声が聞こえれば脱兎の如く逃げていた。
お陰でまともに顔を合わせることも話をすることもなかったというのに。
今日、少し油断したところをついに捕まってしまったのだ。

「あんあほほはれはんれふ、ひへるひひまっへるひゃないれふか!」

「食べるか喋るかどっちかにしなよ」

「汚いなぁ」と心底嫌そうな顔の宇佐美上等兵。
仕方ないじゃないですか。お茶菓子を食べて休憩しているところに貴方が押しかけてきたんですから。

もぐもぐごっくんと口に入っていたお饅頭を飲み込むと、宇佐美上等兵を見上げ口を開いた。

「…私に何か御用でしょうか」

「僕がかおりなんかに用があるわけないじゃん」

なんかいちいち引っかかる言い方だなぁ…。

「用がないのならどいていただけませんか?これから買い出しに行かなければならないので。ていうか、なんで人生初の壁ドンの相手がよりにもよって宇佐美上等兵なの…!?」

「かべどん…?」と、聞きなれない言葉に首を傾げながらも、なんとなく悪口を言われているということには感づいたらしい。
眉間にシワを作った宇佐美上等兵は不機嫌な表情を浮かべる。

「何その態度。気に食わないなぁ」

フンっと鼻を鳴らし顔を近づけてくると、耳の横でぼそりと呟いた。人を小馬鹿にしたような声色で。

「またこの前みたいに泣かせて欲しいの?」

「…っ!」

ハッとして視線を向けると、上等兵殿はにやにやと嫌な笑みを口元に湛えてこちらを見下ろしていた。

いやいや、泣いてませんから!
涙目にはなっていましたけど、泣いたりしてないですからね!
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