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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


洗濯物を畳み終え午後の仕事がひと段落着いたタイミングで、廊下の向こうから月島軍曹が歩いてくるのが見えた。珍しく鯉登少尉が一緒ではない。
ここぞとばかりに慌てて駆け寄ると、意を決して声を掛けた。

「医学を学びたい?」

「本格的なものではなくてもいいんです。ただ、皆さんがケガなどをされたときに、少しでもお力になれたらと思って…」

先日、杉元さんが連れてこられた日からずっと考えていたことだ。明治時代で、この第七師団で生きていくために、私が出来ること。

鯉登少尉がいたら絶対にダメだと言われそうだったから、軍曹が1人の時を狙ったのに。
月島軍曹は元々の渋い表情から、さらに眉間にシワを寄せた。

「ここには衛生隊がいます。かおりさんがそんなことをする必要はありません」

きっぱりと断られてしまった。が、これで引き下がるわけにはいかない。

「それはわかっています。でも、もし皆さんに何かあったときに、1人だけ何も出来ないのは嫌なんです」

私では戦うことはできない。そんなのは始めから無理だってわかっている。
だったらせめて、ケガを負った人の治療が出来たなら。

「しかし…」

「お願いします…!皆さんの邪魔にならないようにしますので…!」

なおも渋る月島軍曹にこの通りと勢いよく頭を下げると、しばらくして上から盛大な溜め息が聞こえてきた。

「…鶴見中尉殿に話をしてみます」

私のしつこさに観念したのか、月島軍曹は仕方ないと言わんばかりの表情で呟いた。

「ありがとうございます!月島さん!」

「…っ!」

ばっと顔を上げ、嬉しさのあまり目の前の人物に抱き着いた。
目の前の人物って、もちろん月島軍曹なわけで。

お礼を言ったところで、自分のしでかしてしまったことに気付く。

「ごっ、ごめんなさい…!嬉しくてつい…っ」

月島軍曹に回していた腕をパッと離して慌てて謝った。
ヤバい。心臓バクバク。絶対顔赤い。

両頬を抑えて恐る恐る月島軍曹を見上げる。
きっと「なんだこいつは」と言わんばかりの怪訝な顔をしているに違いない。

と思っていたのに。

右手で口元を抑えている月島軍曹の頬が、ほんのりと赤みを帯びていた。
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