第2章 第七師団
「ど、どうぞ…」
遅くなってしまったが恐る恐るながらお茶を出す。
鶴見中尉と杉元さん(どうやら杉元さんで確定らしい)、両者は丸い机を挟んで座っている。
お茶を淹れに部屋を離れている間に、張り詰めた空気は少しだけ和らいでいた。
団子の串は先程と変わらず杉元さんの顔に刺さったままだ。
痛くないのかな…。
お茶を出した後はぺこりと一礼して部屋を後にした。
私がこの場にいると、きっと都合が悪いと思ったから。
杉元さんが去り際に「ありがとう、かおりちゃん」と笑ってくれた。
やっぱりとても優しい人だなと思った。
自室へと戻った私は、しばらくその場に座り込んでしまった。
鶴見中尉と杉元さんのやりとりを目の当たりにして、いまだに心臓が驚きと恐怖でバクバクしている。
団子の串にだけど、人が刺されるシーンなんて初めて見た。
ドラマや映画ではない、現実で。しかもあんな至近距離で。
今私がいるのは明治時代。
日本がまだ外国と戦争をしている時代で。
しかも彼らは軍人で、ここは軍人の宿舎で。
ここの人たちと一緒にいるということは、ああいうことをこれからも体験するということなのだ。
私にはこの世界に行くあてなんてない。
覚悟を決めなくてはいけないのかもしれない。
ずっと着ていたワンピースからいつものメイド服に着替える。
あんなことがあったのだ、今夜の食事会は恐らく中止になるだろう。
夕飯の準備に戻るため、私は厨房へと向かった。