第2章 第七師団
「尾形さんをやったって…」
この軍帽の彼、もとい杉元さんが?尾形さんを包帯ぐるぐる巻きの病院送りにした張本人?
こんな優しい人に、一体どんな酷いことをしたらあんなことになるんですか、尾形さん。
「人違いだな。俺は杉元なんて名前じゃねぇ」
え?人違いなの?杉元さんじゃないの?
鶴見中尉は机に文字を書いた串団子を頬張りながら続ける。
あ、普通に食べるんですね、それ。
「一度だけ『不死身の杉元』を旅順で見かけた。鬼神のごとき壮烈な戦いぶりに目を奪われた。あのとき見たのはお前だ」
え?え?やっぱり杉元さんで合ってるの?
私は鶴見中尉と杉元?さんに交互に視線を向けて、ひたすら困惑していた。
「なぜ尾形上等兵は不死身の杉元に接触したのか…。それはお前が金塊のありかを示した入れ墨の暗号を持っていたからだ。…と、ここまで話がつながることを恐れて我々から逃げようとした」
鶴見中尉の言葉にハッとする。
確かに杉元?さんに「変わった入れ墨のヤツを知らないか」と聞かれていた。それが中尉の言う入れ墨の暗号ってこと?
金塊のありかを示した入れ墨…。
なにその漫画みたいな設定。
いやいや、待って待って待って。
その金塊を、鶴見中尉と杉元?さんの両者が探しているということ?
つまりは、この二人は金塊を巡って敵対している関係ってこと…?
それって今まさに一触即発、めちゃくちゃヤバい状況ってことじゃないの!?
私が思考を巡らせている間に、緊張で張り詰めていたはずの室内にはははと笑い声が響いた。
あ、あれ?敵同士じゃないのかな?
そうか、杉元?さんも軍人さんってことは、鶴見中尉の仲間ってことだもんね。なーんだ、焦って損したー。
なんだか和やかな雰囲気に、少しほっとして二人を見る。
いや、でもだったらなんで尾形さんは杉元?さんにフルボッコにされてるわけ?
素朴な疑問が浮かんだ次の瞬間。
鶴見中尉の右手の中にあった団子の串が、杉元?さんの頬を左から右に貫通していた。
「たいした男だ。まばたきひとつしておらん」
鶴見中尉は彼を真っ直ぐに見つめて言った。
「やはりおまえは不死身の杉元だ」
あまりのことに、声さえ出せずにその場に立ち尽くした。