第2章 第七師団
コンコンコン。
「失礼致します」
3回ノックをして部屋へと入る。
すぐにテーブルの上に目をやると、そこにお茶がないことに気付いた。串団子だけっていうからてっきりお茶は出してあると思っていたのに。
「失礼致しました。お茶もすぐにお待ち致します」
そう言って、とりあえず串団子のお皿をテーブルへと置いた。
そこで初めて客人の顔を見て、「あっ」と声を出してしまった。
「あれ、さっきのお姉さん」
彼もこちらに気付いたようで、その整った顔に笑顔を浮かべた。
その正面で、鶴見中尉の口髭がピクリと動いたのが見えた。
ていうかお兄さん、口元血だらけですけど大丈夫ですか?
いや全然大丈夫じゃないよね。
えーと、まさか、もしかしてそれ、鶴見中尉にやられた感じ?
額からたらりと汗が落ちてくるのがわかった。
「…この方と知り合いなのか?かおりくん」
「先程買い出しの際に私の不注意でぶつかってしまって、転びそうだったところを助けていただいたのです」
「なるほど…」
なるべく笑顔で当たり障りなく、この人はきっといい人ですよ〜とそれとなく伝えたけれど。多分鶴見中尉には伝わっていない。
というよりも、彼がいい人かどうかなんて関係ないという感じだろう。
「かおりくん、その服よく似合っているじゃないか。思った通りだ」
鶴見中尉はにこにこと笑顔を湛えながら、軍帽の彼にも「甘いものは好きか?」と問いかける。
二人で私が持ってきた串団子を手に取ると、彼がモチャモチャと食べ始めた。「うまい」と感想を述べる。
対する鶴見中尉はというと、彼の感想に同意するように激しく頷いた後、団子のタレで机に文字を書き始めた。
え、ちょっと!もったいない!
「ふじみ」「ふじみ」と繰り返し呟く鶴見中尉。軍帽の彼は何やら気まずそうな顔をした後、急に立ち上がってその場から去ろうとする。
「川岸で瀕死の部下が見つかり、指で文字を書いた」
「ごちそうさま。お姉さん、出口は向こうかな?」
そう聞かれたので咄嗟に案内しようとした私は、鶴見中尉の次の言葉で固まってしまった。
「尾形上等兵をやったのはお前だな?不死身の杉元」
軍帽の彼の表情が変わった。