第2章 第七師団
食材の買い出しを済ませて急いで兵舎へと戻ると、たまたま通りかかった月島軍曹が出迎えてくれた。
「持ちましょう」
そう言って両手にぶら下げていた買い物袋を持ってくれる。またもや月島軍曹にキュンとさせられてしまった。本人絶対自覚ない。この人は本当にずるい。
料理担当の人たちと一緒にさささっと下拵えを終え、あとは食べる直前に焼いたり温め直したりしてもらうように伝えておく。
こちらに来て、私の家事スキルは格段に上がった。もういつ嫁に行っても恥ずかしくないレベルになっていると思う。まあ結婚相手を見つけるより先に、現代に帰る方法を探さなくてはいけないのだけれど。
とりあえず今取り急ぎやるべきことは、鶴見中尉と食事に行くための準備だ。
自室へと戻り、鯉登少尉から渡された箱からワンピースを取り出した。
「あー…、行きたくないなぁ…」
袖を通しながら愚痴を零す。
こんな高価そうなワンピースを着て行くお店なんて、絶対お高いところだろう。どう考えても食事のマナーとか全然知らない小娘が行っていいお店じゃないでしょ。
それに、中尉からなにか追及されないか、それが一番怖い。
鶴見中尉一筋で盲目になっているとはいえ、宇佐美上等兵にあれだけ疑われているんだ。あの鶴見中尉がなにも考えていないわけがない。
未来から来た、とは思っていなくても、持ち物言動その他諸々で自分たちとは違う存在であることに気付いていそうで恐ろしい。
一対一で面と向かってあの顔に問い詰められたら、泣きながらあることないこと白状してしまうかもしれない。
そうしたら私は、どうなってしまうのだろうか。
尾形さんの言っていた通り、死ーー…。
「かおりさん、今よろしいでしょうか?」
ノックと同時にそう声をかけられて、不穏なことを考えていた私はびくりと肩を揺らしてしまった。
「は、はい!何でしょうか?」
扉の方へ振り向き返事をすると、相手からは扉越しに申し訳なさそうな声が返ってきた。
「鶴見中尉殿から花園公園の串団子を持ってくるようにと言われたのですが、どこにあるかわからなくて…」
「わかりました、すぐ行きます!」
お茶菓子がいるということは来客だろうか?
お客様を待たせるわけにはいかない。メイド服に着替え直すことなく、ワンピースのまま急いで部屋を出た。