第2章 第七師団
「ご…っ、ごめんなさい…!」
慌てて彼の頬から手を離す。
私ってば、勝手に感傷に耽った挙句、見ず知らずの人になんてことを…!
初対面の女にいきなり頬を触られた目の前の彼は、怒ることもなく眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をした。
「いやいや、こっちこそごめんね。びっくりしたよな、傷…」
「い、いえいえ!そんな!こちらこそ失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした!」
なんという好青年…!しかもとんでもなく顔がいい…!
完全にこちら側が悪いというのに謝る彼に、思いっきり頭を下げて謝罪する。
むしろぶつかったのも私の不注意であれば、よろけたところを助けてもらったというのに。気にしていたかもしれないのに断りもなく顔に触れるなんて、無神経にも程がある行為だ。
「本当にすみませんでした!…あの、助けていただきありがとうございました。なにかお礼をしたいのですが…」
そう言うと、彼は「気にしないで」と照れたように笑った。その直後に「あ」と呟くと、少しだけ声のトーンを落として話し始める。
「お姉さん、この辺の人?」
「はい…まあ…」
本来は令和の東京から来た人間なのだけれども、こっちの世界ではこの街の住人であることに間違いはない。
彼の声色に合わせるように、私も少し小さめの声で相槌を打った。
「だったらこの辺りで見たことないかな?変わった入れ墨を入れてるヤツ。噂話とかでもいいんだけど」
「変わった入れ墨…」
って、どんなだ???
現代なら、外国人が意味を知らずに日本語のタトゥーを入れちゃって後悔するなんて話は聞いたりするけど、明治時代の入れ墨ってどんなのなんだろうか。龍とか虎とか?
だったら変わった入れ墨って?うーん、わからん。
好青年のお役に立ちたい気持ちはめちゃめちゃあるものの、これといった心当たりがなく考え込んでしまう。
そんな私を見て自分の欲しい情報を持っていないと判断したらしい。
「変なこと聞いてごめんな」
またも謝った彼は、「考え事して歩くときは周りに気をつけてね、お姉さん」と最後まで気遣いを見せ去っていった。
やはりとてつもない好青年だ。
彼の尋ね人が無事見つかるよう心の中でそっとお祈りして、私は買い出しの続きに向かった。