第2章 第七師団
夜は鶴見中尉の食事会にお呼ばれしているため、軍の皆さんのお夕飯を早めに準備しておかなければならない。
急いで買い物を済まさなければと少々早足で街を進む。
というか、私鶴見中尉と食事に行くとも行かないとも返事してないんだけどなぁ。ワンピースを準備されているあたり、強制参加ということなのでしょう。
お世話になっている身であるためその辺の立場はものすごく弱いから仕方ないんだけれども。
そして鶴見中尉を始め、第七師団の方々にはめちゃくちゃ感謝もしているんだけれども。
出来れば行きたくないと思ってしまうのは、ダメなことでしょうか。
少し憂鬱な気持ちのまま、夕飯の買い出しを続けた。
野菜とお肉とお魚と。あとはどこのお店に行こうかと考えながら歩いていたのがまずかったようで、すれ違い様に右肩が人にぶつかってしまった。
よろけながら「すみません…っ」と謝ると、さっと相手の腕が腰に回され倒れそうな身体を支えてくれた。
流れるような身のこなしに、思わず感心してしまう。
「ごめんね、お姉さん!大丈夫だった!?」
フレンドリーな言葉遣いで謝る相手の顔を見上げて、一瞬言葉に詰まる。
彼の顔には大きな傷跡があったからだ。
軍帽を被っているということは、軍人さんなのだろう。
その傷は戦争で負ったものだろうか。
明治時代ということは日清戦争か。見たところまだ若いから日露戦争だろうか。
どちらにせよ、私とさほど歳の変わらないこの人は、私の想像なんて到底及ばない壮絶な経験をしてきたのだろう。
戦争なんて、教科書でしか見たことのない遠い遠い世界の話。
今も世界のどこかでは戦争が起きているんだよなんて言われても、やっぱりどこか他人事で。日本にいると実感なんか湧かなくて。
同じ日本でも、たった100年生まれた時代が違うってだけで、当たり前だけど生きている世界が全く違うんだ。
この人も尾形さんも月島軍曹たちも。
「えっと…、あの…、お姉さん?」
困惑した表情で彼が言った。
気付いたら、無意識に彼の傷に手を伸ばしていた。