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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


バタバタと廊下から足音が聞こえる。
それは徐々に近づいて、医務室の前でピタリと止まった。

どうやら尾形さんはこの気配に気づいて目を閉じたようだ。

私と宇佐美上等兵の視線も、自然とドアへと向かう。

瞬間、勢いよく扉が開かれたかと思ったら、満面の笑みを湛えた鶴見中尉が大げさに両手を上げて医務室内へと入ってきた。
ばばーん!とでも効果音がつきそうな登場の仕方に、しばらく呆然と見つめてしまった。

「かおりくんはいるかな?」

私の名前を呼びながらこちらに視線を向けた鶴見中尉の動きが不自然に止まる。

そりゃそうだろう。
鶴見中尉の見開かれた瞳に映っているのは、今にも致す寸前の私と宇佐美上等兵なのだから。

「…おっと、これは失礼」

中尉は微笑ましいものでも見るように目を細めフフッと笑うと、「邪魔をしてしまったね」と部屋から立ち去ろうと踵を返した。

いやいや鶴見中尉、全っ然微笑ましくないですからね!?
この手を縛り上げるベルト、見えてます?
あなたの部下が無理矢理乙女を犯そうとしてるんですからね!?

中尉がこの光景をどう取ったのかは知らないが、助かる道はここしかない!とばかりにその背中に慌てて声を上げた。

「待ってください鶴見中尉…!たっ、助け…」

「違うんです!鶴見中尉殿…!」

私の決死の救助要請を遮るように出された叫び声は、私を襲っていた張本人からのものだった。

宇佐美上等兵は私の太ももから両手を離すと、一目散に鶴見中尉の元へ駆け寄っていった。中尉の足に縋りつかん勢いで床に膝をつくと、まるで浮気現場を目撃された嫁のように言い訳を並べていく。

「これは一種の事故のようなもので、中尉殿が思っているようなことではありません…!あんな小娘、この僕が相手にするわけ無いじゃないですか。僕の心も身体も…何もかもすべて、鶴見中尉殿のものですから…!!」

余程鶴見中尉に誤解されるのが嫌だったのだろう。言葉の端々から必死さが伺える。

「えええ〜…」

私はドン引きで態度の豹変した宇佐美上等兵を見つめた。

鶴見中尉は目を閉じたままなにかを思案しているようで、うーんと左手を顎にあてている。
暫くしてパチリと両目を開くと、何事もなかったかのように笑顔を浮かべて仰った。

「かおりくん、今夜食事にでも行こうじゃないか」
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