• テキストサイズ

ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


「おはようございます、かおりさん」

「おっ!おはようございます月島さん…!」

朝食が終わり、廊下の掃除に取り掛かり始めた私に、月島軍曹が声を掛けた。

「今日はとても天気が良いですね」

「そ、そうですね…」

軍曹はいつも通りの仏頂面でいつも通りの会話を続けている。
一方の私は無意識に先日の出来事を思い出してしまい上手く言葉が出てこない。月島軍曹を見るとドキドキしてしまって、視線を合わせることも出来ないでいた。

そんな私を不審に思ったのか、軍曹はふいにこちらを見ると、おもむろに顔を近付けてきた。驚いて肩を震わせる私を月島軍曹は真っ直ぐに見つめている。
いや、近い!近いです!

「大丈夫ですか?顔が赤いようですが、熱でもあるのではないですか?」

貴方のせいです!とは言えず気まずさで黙っていると、月島軍曹の右手が私の前髪に触れた。
…と思ったら、次の瞬間にはコツンと何かが額に当たっていた。

「…少し熱いかもしれないですね」

目の前には月島軍曹の顔。
あまりの急展開に、身体が固まって動かない。

わかってる。月島軍曹は私を心配して熱を計ってくれているだけだと。わかってる。わかってるけど…!

額と額が触れ合って、そんな体勢が10秒ほど続いて、私の心臓はさらにバクバクと大きな音を立てていた。

「念の為、医務室に行かれたほうがいいかもしれませんね」

私がそんな状態だと気付いているのかいないのか、月島軍曹は至って冷静にそう告げるとようやく顔を上げた。乱れた前髪をささっと直してくれるその優しさが、また私をキュンとさせる。

「では…」

「月島ぁ!!!」

月島軍曹が立ち去ろうと私に背を向けたその時、ずざざざっと音を立てて鯉登少尉が現れた。なんだか怒っているようで、特徴的な眉毛の真ん中にはシワが何本か並んでいる。

「鯉登少尉殿、なんですか?」

月島軍曹は踵を返すと、鯉登少尉とは対照的に彼特有の無表情のまま応えた。
あまりの感情のなさに一瞬言葉に詰まる鯉登少尉だったけれど、ぐっと拳を握り締めて軍曹目掛け詰め寄っていった。

「月島はかおりのことが好きなのか!?」

「「………は?」」

私と月島軍曹の声が、見事にハモッた瞬間だった。
/ 65ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp