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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


「だから言っただろうが」

尾形上等兵は、呆れたようにそう言った。

「返す言葉もございません…」


鯉登少尉が大騒ぎしてくれたおかげで、例の事件が師団中に広まってしまっていた。医務室で寝ていただけの尾形さんにまで。何故!?
尾形さん曰く、ここまで鯉登少尉の大声が聞こえていたとのこと。

ここからあの男の部屋まで、結構な距離があるんですけど。
恐るべし、鯉登音之進の声量。

しかもこともあろうに、私があの男に強姦されたという誤った内容で伝わっていたので、そこは激しく否定しておいた。未遂です、未遂。

「あれだけ騒いでりゃ、他の奴らもそう思うだろうぜ」

なんてこった。これは大変だ。師団全員の誤解を解かなければならないのか。
私ははぁー…っとため息を零した。

あの後、鯉登少尉は刀を持ち出して、「叩っ斬ってやる!」と気絶して倒れたままの男に容赦なく斬りかかっていった。
なんとか月島軍曹が身体を抑えて止めに入るも鯉登少尉は収まらず。
「何故止める、月島ぁ!この男が…かおりを…!かおりのことを手籠にしたんだぞ!!許せるものかぁぁぁ!!!」と大絶叫していた。
あの時は私も精神的ダメージを受けて余裕がなく、ただただ呆然とその場で立ち尽くすしか出来なかったけれど、そういえば「弄んだ」だの「陵辱した」だの叫んでいた気がする。

ああ…確かに。鯉登少尉の叫び声を聞いただけでは勘違いしても仕方ないかもしれない。

騒ぎを聞きつけた鶴見中尉が来てくれなければ、とてもじゃないけれど収拾がつかなかっただろう。

「で、お前は月島軍曹に助けられて惚れちまったと」

「い、いや…!別に好きとかそういうのではなくてですね!ちょっとキュンとしたというか、ときめいたというか…」

「惚れてんだろうが」

尾形さんは妙に不機嫌な様子で視線を動かし、何かを思案しているように見えた。

「…たらし込むつもりがたらし込まれたか。鶴見中尉のやりそうなことだ」

「え?なにか言いましたか?」

ぼそりと呟かれた言葉は聞き取れないほど小さくて、聞き返してもなんでもないと返されるだけだった。
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