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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


「………フッ」

顰めっ面だった月島軍曹の表情が、一瞬緩んだ。…気がした。

本当にほんの一瞬で、瞬きをした後にはもうすでにいつもの真顔に戻っていた。見間違いだったのかな。

「…づぎじまざん、いまわらい"まじた…?」

「いいえ」

まだ涙声のため所々濁点混じりになってしまう私に、月島軍曹は冷静にそう返す。軍曹お得意の仏頂面で、笑いのカケラも存在しないような表情をしていた。

やはり私の気のせいだったのだろうか。
月島軍曹は、自身を見上げる私の涙を軍服の袖口で無造作に拭って立ち上がった。

「落ち着いたなら行きましょう。騒ぎが大きくなるのはかおりさんもお嫌でしょう」

確かに。
皆さんの同僚の方に襲われかけました、なんて話、絶対に広まって欲しくない。
今の私にはこの第七師団しか頼るものがないのだ。お世話になり続けるというのに、そんな状況気まず過ぎる。

ましてやこのことが尾形さんの耳に入ったりしたら、ほら見たことかとどんな嫌味を言われるかわかったものではない。

「立てますか?」

そう言って、月島軍曹が右手を差し出した。
ベッドに座り込んだままの私は少し躊躇しながらも、軍曹の手に自分の左手を重ねる。

支えてくれる手から、私が怖がらないようにと気遣ってくれているのが伝わってくる。
出会ってからずっと、あまりに紳士なその態度に、思わず胸がキュンとしてしまう。

部屋を出る前に曲がっていた胸元のリボンを直し、エプロンとワンピースの裾を整える。別に何もなかったですよとアピールするためだ。

「では行きましょうか…」

「月島ぁん!!!!!」

月島軍曹がドアノブに手を掛けようとしたその瞬間、外側から物凄い勢いで扉が開かれた。あまりの唐突な登場に、私も月島軍曹もその場で固まってしまう。

自身の部下の名を叫びながら現れた鯉登少尉は、目の前で立ちすくむ私たちを見てさらなる大声を上げた。

「かおり!月島ぁ!ここにいたのか!2人で一体何を…ん?」

鯉登少尉の視線が、私たちから部屋の奥で未だ倒れたままの男へと移される。

「こいつは何だ?」

あ、ヤバい。
明らかに泣いた跡のある私の顔と倒れた男を交互に凝視して何かを悟ったらしい。

「ま、まさかこの男、かおりを…!?」

その後、兵舎中に響き渡る程の大声で騒ぎ立て、見事皆に知れ渡りましたとさ。
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