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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第1章 誕生日


白い。とにかく白い。

つい先ほどまで夜道を歩いていた身には、一面の雪の輝くような白さが目に痛かった。

っていうか、なんで雪!?なんで山!?
私、東京にいたはずなんだけど・・・!しかも真夏の!

え?もしかして私、自分で自覚なかっただけで相当酔ってたのか?
お酒強いかも~なんて浮かれていたけど、幻覚を見るほど酔っぱらってた!?

正気に戻らねばと、頭を振ったりぱちぱちとまばたきを繰り返すも、目の前に広がる景色は一向に元に戻ることはなかった。

「な、なんで・・・」

呟いてみても、その言葉は雪山に吸い込まれて消えていく。

都会の喧騒は聞こえない。
ビルの明かりも車のヘッドライトも、信号すらない。

周りにあるのは深く積もった雪と、人を飲み込んでしまいそうな程に鬱蒼と生い茂る森だけ。

スッと肌を掠めるのは、夏の生暖かい夜風ではなく、身体の芯まで凍えさせるような真冬のそれ。

これは本当に酔って見ている幻覚なのだろうか・・・?

やたらとリアルな感覚に途端に怖くなって、助けを求めるように出来るだけ大きな声を出した。

「あの・・・!誰かいませんか・・・!」

いつも自分がいるはずの場所であるならば、真夜中でもない限り人がいない場所なんてほとんど存在しない。
これがもしも幻覚ならば、きっと誰かがこの声に反応してくれるはず。

そんな淡い期待は、突然の強風で脆くも掻き消された。

バランスを崩して倒れた先は、硬いコンクリートの地面ではなく柔らかな雪の上。
全身を襲うその冷たさ。

幻覚じゃない。
これは現実だ。

なんでか分からないけれど、私は真夏の東京から雪山へと、瞬間移動をしてしまったらしい。

「私って、そんな能力あったんだ・・・」

なんて、そんなことを言っている場合じゃない。
自分の今の格好を見る。

タンクトップにサマーニットの透かしカーディガン。
足元はデニムのホットパンツにリボンの付いたミュール。

おおよそ雪山登山には相応しからぬ服装だ。

持ち物はと言えば、パンツのポケットに財布とスマホがあるのみ。

「詰んだ・・・」

このド軽装で雪山で遭難して助かる未来なんて、到底見えるわけがない。
サバイバル経験があるわけでもない、都会でぬくぬくと育ったただの女子大生なのだから。

段々と意識が遠のいていくのを、どこか他人事のように眺める自分がいた。
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