第2章 第七師団
私、鯉登少尉にそんなに思わせぶりなことしたかな?
尾形さんにたらし込んだたらし込んだと心外なことを言われ、ここ数日の出来事を思い返してみる。
初対面でひたすら睨まれて、翌日は勢いよく掴み掛かられて。
うーん、考えてみてもなにも思い当たらない。むしろこれ、嫌ってる人間にやることでは?
「やっぱり好かれるようなことは何もないですよ」
「いーや、なにかあるはずだ」
頑なな尾形さんにもう一度考えてみるけれど、やはり何も思い付くことはない。強いて言うなら。本当に、強いて言うならば。
「ちょっと笑いかけたことはありましたけど、まさかそれだけで…」
「それだな」
きっぱりと尾形さんは言い切った。
いやいやウソでしょ。
「え?でもあれ、ただの愛想笑いですよ?え?ホントに?あれで?」
チョロすぎませんか?鯉登少尉…。
「男なんてそんなもんだよ」
「えええ…」
「特にアイツは童貞のボンボンだからな」
ははっと尾形さんは鼻で笑った。
ど、童貞のボンボンって。パワーワード過ぎませんか?
それにしても、そんなこと言ったらこの世が好きな人だらけになってしまうではないか。男の人ってわからない。
「ここみたいな男所帯の中に年頃の女が入ってきたらそうなるさ。せいぜい襲われないように気を付けるんだな」
なんとも不穏なことを言いながら尾形さんは笑みを浮かべる。
やめて下さい、そんなフラグ立てるようなこと言うの。
「…尾形さんもですか?」
ふと気になったので聞いてみた。
ただの興味本位で、これっぽっちも深い意味なんてなくて。
本当に、ただ気になっただけ。
「あ?」
「尾形さんも、好きになっちゃいます?男だらけの生活に年頃の女が現れたら…」
ちらりと視線だけ向けると、尾形さんは黒目をまん丸にして驚いたような顔をしていた。
ああそれ、やっぱり猫ちゃんみたい。
は…っと息を吐いた後、意地悪そうな笑みを零す。
「残念だが、俺は童貞でもボンボンでもないんでね」
「ですよね…」
至極真っ当なお返事でした。
それと言っておきますが、別に残念がっているわけではないですからね。ここで実は気になってたんだとか言われても、それはそれでとても気まずいので。
こらそこの尾形さん、またまたぁみたいな顔しない。