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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


眉間のシワをそのままに、ずずっとこちらに近づいてくる鯉登少尉。
身体がぶつかるんじゃないかという程の距離まで来たところで、じっと顔を見つめられる。

その間もずっと顰めっ面を貼り付けているんだけど。怖い怖い。

「かおり…」

名前を呼ばれたと思ったら、鯉登少尉の右手が頬に添えられた。
少しずつ顔が近づいて、まるでこのままキスでもされるのではないかという距離感に、心臓が少しだけ早く脈を打つ。

だって鯉登少尉、顔は整っていらっしゃるから。

それになんだか少尉の頬も、ほんのりと赤くなっているような気がする。

「鯉登さん…」

「…私のことは音之進と呼べ」

眉間にシワを刻み、頬を染めて、鯉登少尉が言った。

「おとのしん…さん?」

繰り返すようにそう呟くと、鯉登少尉は満足したのか強張っていた表情を緩め、右手をパッと私から離した。

それからちらりと尾形さんが眠るベッドに視線を向ける。

「…尾形上等兵の見舞いか?」

「あ、はい」

私の返事に鯉登少尉は、とっても不愉快だと言わんばかりの表情を浮かべて腕組みをした。

「一度意識が戻ったと聞くが、その後は眠り続けているのだろう?かおりが足繁く通う必要もないだろう」

それが奥さん、この人実はとっくに意識を取り戻してて話まで出来るんですよ!とは言えず、「ははは…」と苦笑いが溢れた。

「でもこい…音之進さん、数日ですが同じ病室で過ごした仲なので、容態が気になるんです。それに、目を覚ました時に誰かが側にいた方が、尾形さんも安心すると思いませんか?」

にこりと笑顔を向けると、鯉登少尉ははぁ…と小さく溜息を吐いた。

「かおりは優しいのだな。まあそういうことなら好きにすればいい」

「相手が尾形上等兵というのが気に食わんが」そう吐き捨てるように呟いて、鯉登少尉は医務室を後にした。

尾形さん、鯉登少尉にめちゃくちゃ嫌われてない?やっぱりないんだなぁ、人望。

そんなとてつもなく失礼なことを考えていると、後ろからニヤついた声が聞こえてきた。言うまでもなく、尾形さんだ。

「やっぱりたらし込んでんじゃねぇか」

だから、たらし込んでないってば!!
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