第2章 第七師団
今日から新しい土地での新しい生活が始まる。
窓から差し込む清々しい朝日を浴びながら伸びをひとつ。
明治時代の北海道に飛ばされたと言われた時は、一体全体どうしたらいいのかと途方に暮れてしまったけれど、この時代に生きる人たちの助けのおかげでなんとか生き延びることが出来そうで、感謝の念を禁じ得ない。
特に尾形さんには色々とご教示頂き、感謝してもしきれない。
女中の仕事の合間に手が空いたら、お礼がてらお見舞いにでも行ってみようかなんて思いながら、昨晩鶴見中尉から頂いた箱を開けた。
「…なんじゃこりゃ」
思いもよらぬプレゼントに、心の底から変な声が出た。
視線が痛い。
朝から朝食作り、洗濯、兵舎の掃除と働き続け、今は昼食の準備を手伝っている。
第七師団には約一万人が所属しており、この歩兵第二十七聯隊でも二千人ほどがいるという。その中から鶴見中尉によって集められた精鋭が小樽にいるのだそう。
とは言っても私1人でお世話出来る人数なわけもなく、それぞれの担当の兵士の人たちに教わりながら仕事をこなしていた。
のだけれど。
ジロジロと、四方八方から視線が刺さる。
軍の施設に女性がいるのが物珍しい…というだけではない。
それは、私の着ているものに原因があった。
黒い膝丈のワンピースにフリルのついた真っ白なエプロン。そう、所謂メイド服というものだった。
私が着物が着られないと言ったから、鶴見中尉が気を遣って用意してくれたのだろう。ありがたい。とってもありがたいんだけど。
珍しいものには好奇の目が向けられるわけで。
なにやらこちらを見てヒソヒソと話す声も聞こえる。
ああ…居た堪れない…。
「かおりさん」
ふいに名を呼ばれ振り返ると、月島軍曹がいつもの仏頂面で立っていた。その後ろには鯉登少尉の姿も見える。こちらも相変わらず、何故か私を敵視するかのように睨んでいた。昨日会ったばかりですけど、私なにかしました?
「体調は大丈夫ですか?辛いようでしたらすぐに言ってください」
優しい…!仏頂面だけど優しい…!
「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ!元気だけが取り柄なので」
「そうですか。でもどうか、無理はなさらないように」
優しすぎる月島軍曹に感激している私を、眉毛の彼がジッと睨みつけてくる。
あの、ホントに私なにかしましたか?
