第2章 第七師団
未来から来たと言っても、某ネコ型ロボットのように便利な道具を持っているわけでもない。
未来に起こることが分かると言っても、教科書に載っているようなごく一般的な知識しかない。
例えば、何月何日何時に小樽で何が起こるかなんていうピンポイントで具体的なことは、私には知る由もないのだ。
果たしてこれで、私に利用価値があると言えるのだろうか。
だがしかし、利用価値がなくては私が困るのだ!
使えない未来人なんて、百害あって一利なし。
もしかしたら私の何気ない一言で歴史が大きく変わってしまうかもしれないのだ。
良い方にならまだいい。この時代に生きる人々にとって、悪い方に変化してしまったら・・・。
それほど頭の良くない私がちょっと考えただけでも恐ろしい。
そんな危険極まりないもの、すぐに処分したいと思うのが普通だろう。
つまり、私が生き残る方法はただひとつ。
私が未来人だと知っている唯一の人間、目の前にいるこの尾形さんにとって、なくてはならない必要不可欠な存在になること。
・・・・・・な、なれる自信がない。
とりあえず今のところは及第点を頂いているし、このままなんとなく使えそうな女を装っていれば殺されるまではいかない、よね?
「お前、着物が着られないのか」
先ほどの鶴見中尉とのやりとりの一部始終を寝たふりをしながら聞いていたのだろう。尾形さんがそう聞いてきた。
「着られません」
悪びれることもなく即答する私に、「困ったな・・・」と言いながらもさほど困ったように見えない尾形さん。
ぐるぐる巻きの包帯のせいなのか、元から感情表現が乏しいのか。
「着られるようになれ。今すぐに。さすがにその格好は目立ちすぎる」
言われて改めて自分の服装を見る。
カーディガンにタンクトップにホットパンツ。
明治の女性におよそ似つかわしくない格好である。
「着付け、覚えます・・・」
生き残るためには無理だの出来ないだのと言ってもいられない。
今すぐにとまではいかないけれど、出来るだけ早く着付けが出来るようにならなければ。
「俺が回復するまでの間は鶴見中尉には何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通せ」
「そんな無茶な」
「無茶でもやれ。殺されたいのか」
殺されたくはありません。
「それじゃまるで、記憶喪失みたいですね」
何気なく呟いた一言に、尾形さんはにやりと笑みを見せた。
