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ハタチの誕生日に明治時代にトリップした話

第2章 第七師団


どうやら尾形さんはまた眠ってしまったらしい。
ベッドを取り囲んでいた軍人さんたちは、みんな慌ただしく病室から出て行った。
廊下を走る足音がせわしなく聞こえてくる。

誰もいなくなったのを確認して、小声で尾形さんに話しかけてみる。
恐らく寝たふりだろうと思ったからだ。

「・・・尾形さん、起きてますか?」

数秒間の沈黙の後、閉じていた目が開き大きくて真っ黒な瞳がこちらに向けられた。

「・・・なぜ寝たふりだとわかった?」

あ、やっぱり狸寝入りでしたか。

「なぜって・・・意識が戻ってることも話せることも秘密にしろなんて、絶対訳アリじゃないですか。都合の悪いことは意識がない、話せないで通そうとしてることくらいは私でもわかりますよ」

それがどうしてなのかは、皆目見当もつきませんけど。

「ははぁ・・・」

なんだか独特な笑い方をして、尾形さんは満足そうな視線をこちらに寄越した。

「お前、名前は?」

「綾崎かおりです。先程は助けてくださってありがとうございました」

そういえばまだ名乗っていなかったことに気付いて、ぺこりと会釈しながらそう告げた。

「・・・助けた?」

「あれ?違いましたか?私が困っていたから、意識が戻ったふりをして注意を惹いてくれたのかと思ったんですが・・・」

尾形さんは私をじっと見つめたままぴくりとも動かなかった。
またあの値踏みをするような目が私を射抜いている。

身体中にちくちくと視線の針を刺されているようで、とっても居たたまれない。

「あ、あの・・・」

何とも言えない空気に耐え切れず声を上げると、尾形さんはまた「ははぁ」と笑った。

「まずまず及第点ってところか」

いや、なにが?

意味がわからない。
いや、この人は本当に私を値踏みしているのかもしれない。
未来からやってきたという怪しい女が、自分にとって利用価値があるのかないのか。

あの鶴見中尉という人も、きっと私のことをそういう目で見ていたに違いない。

・・・待って待って待って。もし利用価値がないって判断されてしまったら、私は一体どうなるの?

最悪の事態を想像して、ぞぞぞっと背筋が寒くなる。

何がなんでもこの人に必要な人間だと思われなければ、この先私は生きていけないのかもしれない。

とても不本意ではあるが、私は彼に運命を握られているのだ。
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