第2章 第七師団
にっこりととても好意的に見えるその笑顔の奥、実にドス黒いものが見えた気がした。
私の本能が、警戒しろとアラームを鳴らす。
死神のおじ様はさらに続けた。
「女性がそのような短い洋袴を履くというのも珍しい。もしやお嬢さんは外国にいた経験がおありかな?」
すっごいぐいぐい来るんですけど。めちゃくちゃプライベートに踏み込もうとして来るんですけど。
なんと答えていいやら。「いや〜・・・。どうだったかなぁ〜・・・」なんて至極曖昧な返答で誤魔化しているが、絶対これ誤魔化しきれてないヤツだよなぁ・・・。
しどろもどろな私の思考を読んでいるかのように真っ直ぐに見つめてくる視線が、顔は笑っているのに物凄く怖い。
だが、ここで私が未来から来た人間だとバレるわけにはいかない。
軍事利用ももちろん処刑もごめんです!
だけど一体なんと伝えたらこの窮地を乗り切ることが出来るのだろうか。「そうです、外国から来ました」?英語すらまともに話せないのに?
ダメだ、この人にはすぐに嘘だと見破られるだろう。
冷や汗だらだらで焦りまくる私に、死神がさらに追撃を掛けようとしたその時。
「う・・・ゔぅ・・・」
2つ隣のベッドから呻き声が聞こえた。
「尾形上等兵!」
すぐに月島軍曹がベッドサイドに駆け寄った。
あの重症の人、尾形さんって言うのか・・・。
「鶴見中尉殿!尾形上等兵の意識が戻りました!」
「早速で悪いが何があった。話せるか?尾形上等兵」
鶴見中尉と呼ばれた額当ての人も尾形さんのベッドへと向かう。
さらにぞろぞろと、尾形さんのベッドを囲むように何名かの軍人さんが病室へと現れた。
1人取り残された私は、呆然と彼らの様子を眺めていた。
彼らの中心にいる尾形さんは、さらに苦しそうな呻き声を上げ、なにやら指で文字を書いているようだった。
いやあんた、昨日はめちゃくちゃ流暢に会話してたじゃん。
何故尾形さんが喋れない演技をしているのかはわからないけれど、とにかく彼らの注目が私から逸れたようでホッと胸を撫で下ろした。
あのままツッコまれていたらどうなっていたことか。
タイミングよく尾形さんが目を覚ましてくれて助かった。
・・・いや、もしかして尾形さん、私を助けてくれたのだろうか?
何のために?
そんなこと、いくら考えてもわかるはずがなかった。