依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第23章 その本質
やっぱり自分は最低だな、とハンドルを握る手に力が入る。
🌸がどんな思いで車に乗っていたかも知らず、あまつさえ怯えている姿に欲情していたなんて。
「両親は?」
「健在だよ。
でも、ほとんど連絡してないかな」
何話していいかわかんなくて、と俯く横顔。
「本当は、車に乗るのは嫌いなんじゃないか」
もしくは怖い、と確認する。
「最初は怖かったんだけど、乗ってみたら平気だった」
助手席に乗せてくれたからかな、と微笑んでいる。
「左ハンドルっていうのも、あの車と違うって感じで...
黄色の軽自動車。母が運転席で父が助手席。
私はいつも後部座席だった。
前で両親が小声でなにか言ってるのがラジオでかき消されて、会話は殆どなかったな」
懐かしい、と無理に笑っている顔が嫌いだ、と思った。
「シャンクスの両親は?」
まぁ振られるだろうとわかっていた話題だったが🌸が、これ以上家族について話したくない、もしくは自分に話せることはもうない、と示しているのはわかった。
一瞬言い淀んで、誤魔化したってしかない、とできるだけ軽い声で言った。
「いない」
すっかり覚えた🌸の自宅方面へ向かう。
「施設で育ったんだ」
最近は思い出すことも減っていた海や、船を模した建物を思い出すと、自然と笑みが出た。
「生まれてすぐで預けられたらしい。
だから親の顔は知らない。
だが、親のように育ててくれた人や兄弟のように育ったやつはいる。
家族って言われたら、その船のみんなかな。
ほら、『芍薬』であったレイさん、覚えてるだろ?」
うん、と頷いた🌸。
「副施設長だったんだ。
俺を育ててくれた一人」
結果、こうして隣りにいる🌸のことを思うと、芍薬でレイさんに会ったのも巡り合せだったかもしれない、と思う。
「そっか」
ゆっくりと赤信号で停めてサイドブレーキを引く。
🌸の膝に載せられていた手を掴むと、少し体を傾けて、指を絡めた白い甲を頬に寄せた。
髭の残る頬を擦り付けると、擽ったい、と笑った柔らかい頬に一つ、キスをした。