依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第23章 その本質
相変わらず、タイヤがコンクリートを滑る音が嫌いらしい。
体に力が入って奥歯を噛んでいる様が、どうにもベッドでの様子とリンクしてしまってゾワゾワする。
「いい加減慣れろ」
こっちの身が持たん、と頭を撫でて励ます。
「無理無理無理。
もう本当にこの音だけは駄目なの」
いやぁ、と言って目を潤ませるものだから、たまったもんじゃない。
「早々に慣れてくれんと、車で襲うぞ」
「怖がってる恋人を襲うなんて最低!」
この感覚わかってくれないの?と耳を塞いでいる手を引いて自分の腿に乗せると、ポンポン、と叩いて慰める。
「ほら、もう出るから」
半泣き状態の🌸が可哀想に思えてきて、元気出せ、と信号に止まった所で接吻る。
歩行者用信号の小鳥の鳴き声が止まったのを合図に離れると、ん、と頷く🌸の自然な睫毛に絡んだ涙が、瞬きに合わせてキラキラとしていた。
そんなに嫌か、と腿に置かれた手に指を絡める。
「昔から車酔いしやすくて、今でもバスとか揺れやすいやつは特に」
揺れた瞳を横目に見て、ぎゅっと手を握る。
「それだけか?」
ピク、と動いた指先。
親指で手の甲を撫でてやると、ゆっくりと深く息を吐いた彼女に、過去に事故にでもあっているのだろうか、とウインカーを出す。
カチカチと言う音がやけに大きく聞こえた。
「いい思い出、ないの」
そう言って横を向くと、車窓の景色を眺めている。
「車に乗ると行き着く先は様々。
月に一度、両親も揃って出かけて、行き先は公園だったりスーパーだったり、デパートだったり遊園地の時もあった。
賑やかで楽しそうなところばかりなのに連れてきてくれた両親は、お財布だけ渡してどっかに行っちゃう」
まるで絵本を読み聞かせているような声だった。
「いつも、立体駐車場に車が停められて、両親と車を降りてお店や公園に向かうの。
でも、両親は『後で迎えに来るから』って、中には入ってくれない。
それが幾度が続いて、車に乗ると、ああまた一人にされるのか、って。
小学校に上がったくらいから車に乗ると気分が悪くなるようになって、あまり得意じゃないの」
なぜ一人、置いて行くのかと未だに聞けずにいる、と🌸は俯いた瞳を翳らせた。