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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第5章 6年間の始まり01


なんだよ、と言った男がびくっとしたのがわかる。
170cm台と思われる、小さくはない二人が見上げる影。

「俺の連れなんだ」
落ち着いていてメロウな声に、聞き覚えがない。
「手、離してもらっていいか?」
声こそ柔らかいが、男を刺すような目線で見ている。
「離せ、と言っている」
急に冷めきった声に、ゾクッとまた背筋が凍る。
男二人は、チッと下手くそな舌打ちをして、行こうぜ、と腕を振り払い去っていった。

「大丈夫か?」
このあたりはあまり治安よくないぞ、とさっきの低い声が嘘のように、あっけらかんとした声。
振り返った影が仄暗い街灯の下に行くと、🌸は息を飲んだ。
明かりの元。
質のいいスーツを着こなしている。
少し長めに切り揃えられた赤い前髪の向こうには、どこか惹きつけられる丸っこい瞳の右目。
そして、左目を抉るように残っている3本の傷跡。

一瞬、脳裏をかすめた過去の記憶に、あ、と声が漏れた。

「大丈夫か?怪我でもしてるのか?」
ス、と目の前にしゃがみこんで覗き込んでくる瞳。
おーい、と振られる手の爪が短く切りそろえられた自然な色をしていて、はっとする。

「ありがとうございました、助かりました」
やっとの思いで感謝の言葉を彼にかけると、隣の🎀が勢いよく頭を下げる。
「本当に大丈夫か?」
呆けていたようだが、と心配そうな顔色に、大丈夫です、と頷く。

大丈夫ならいいが、と腰を伸ばした彼がバッグについた土埃を吐息でフッと吹き飛ばしたかと思うと、こっちのは取れんな、と徐ろに内ポケットから取り出したハンカチでLOEWEに残った汚れを拭き取りだした。
一挙手に見惚れていた🌸は、Sのイニシャルが入ったブランド物のハンカチに声を上げる。

「あ、あの!大丈夫です、ハンカチが汚れちゃいます」
「ハンカチは、汚れを拭くためにあるものだろう」
面白いやつだな、と笑う彼から差し出された2つのバッグはきれいになっていた。

「まだそんなに遅い時間じゃないが、女二人で出歩くにはちとオススメできない所だ。
酒を奢ってくれる男を探しているなら別だが、そうじゃないようだな」
そう言って、ん、と顎で🎀を指すと、掲げた左手の薬指をひょよひょこと動かした。
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