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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第12章 追いかけるよりも引き寄せて01


重役用の休憩室で、支部所の管理職付きの秘書が用意したコーヒーを手に、さっき終わったばかりの会議の資料に目を通す。2時間半、ぶっ通しでレジュメ資料とスライド資料を見ていたので瞬きが鈍くなる。
それなりに重要な会議であったはずだが、この手の会議は本社に帰るときには優秀な部下が見事にまとめ上げた議事録を用意してくれるので、それで内容を把握しても遅くないだろう。

なにより、脳の2割は会議の内容を聞いていたと思うが、残りの8割は昨日以降、ずっと脳裏に浮かんでいる🌸のことばかりでうまく回っていない。

資料を読むのは諦めて、細かな字を見るときに使っている眼鏡を外して手を組むと、背もたれに寄りかかって浅く座る。


今朝、支社の入り口で合流した本社からの部下は、支所内の各部署に挨拶に回っている。
目を閉じて本社に戻ってからの業務について考えていると、閉じられた会議室の部屋がノックされる。

「あいてるぞー」
だらりと腰掛けていた椅子に深く掛け直し、一応はこの会社のトップなのでそれらしく見えるように振る舞う。
失礼します、と入ってきたのはライトベージュのスーツの女だった。
「総務部総務事務管理課広報係セシルと申します」
お取替えいたします、と手にしたラウンドトレーの湯気の立つコーヒー、個包装の菓子が乗せられたデザート皿を机においた。
一応、書類の中身が見えないように伏せ置いて、冷めてしまったコーヒーを飲み干してソーサーに置くと、ありがとうございます、とそれをトレーに乗せている。
「ん?」
なにか言いたげに傍らに立っているセシルを見上げると、いつもありがとうございます、ときれいに笑っている。

「本社の皆様、いつもこちらに来られる時に差し入れをくださるので、みんな楽しみにしてるんです」
「ああ」
何が渡ったのかは知らないけれど、とは言わない。いつも、本社の幹部が支部へ出張すると決まると、初日に運送会社経由で届くようにそれらを手配しているのは幹部社員のスケジュール管理も担っている、本社総務部総務課の仕事だから。一応、表面上は幹部社員から、とはしているが。
気に入ってもらえたなら良かった、と笑顔を向けて、テーブルに放っていた眼鏡と長く愛用しているペンを取ると、隣の会議室へと戻った。
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