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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第2章 ファイナルのスタート


駐車場の一番奥にある赤い車。
その車の隣には、赤い髪の長駆。
再びあの部屋で暮らすようになったけれど、間取りや調理器具、家具やシャンプーには馴染みがあるのに、彼の存在だけが自分の中で落ち着かない。


自分が運転をする、と聞いて絶句した。
言い出した時は、彼の「仲間」の人たちが目を剥くので、その身体での運転が慣れたものじゃないのがわかった。
オートマなんだ、できる!と軽く笑って地下駐車場で運転席に乗り込もうとするから、なんとか言い聞かせ、ひらけたところに移してからエンジンをかけるのをハラハラしながら見ていた。
左ハンドルのそれに、元々右手でシフトレバーを操作していたようなので、案外スムーズに走り出し、自宅兼勤務先のビルを周って帰ってきた時に、ほらな、と言って得意げにするから、無事帰ってきた安心と、なんともお気楽な笑顔に全員がため息をついた。
バックでの駐車と鋭角のカーブにちょっと手間取るな、と言う彼に、旋回ハンドルでもつけてみるか、と一緒に見守っていた彼の仲間だという一人が言うと、翌日にはハンドルの右脇にそれが取り付けられていた。


車の脇に立ち、辺りを伺っている赤い髪。
昨日まであった無精髭が剃られた横顔に記憶が浅い。
ちょっと声をかけるのを躊躇ったが、大丈夫、と言い聞かせて長く息を吐く。

「シャンっ!」
クスさん、と出かけて慌てて飲み込む。
顔を上げた彼の左顔に鋭く残る傷跡は、出会った頃にはあったようだ。
いつ、どこで撮ったのかも覚えていない彼との数多の写真には、すでに傷がある。
写真と違うのは、軸を感じない左の袖。
食事の最中だったのか、スプーンを持って映る写真。
彼に示されて、振り向きざまを撮られた写真。
どれも、彼は左手を上げていた。

生活の中でも、時折、右手の動きがぎこちない。

右手を上げた顔がひどく嬉しそうに見えた。

  さん付け、しないでくれ。

いくつか年上の彼を自分がそう呼んでいた期間は、きっと長くない。
彼がそう呼ぶように、自分も名前の一部だけで呼びかけていたんだろう。
だから彼は、たったそれだけのことを泣きそうな顔で願ったのだ。


「ただいま、シャン」
「...おかえり、🌸」
少し潤む瞳で、不器用にでも微笑んでくれるから、甲で頬を撫でる右手が微かに震えている事には気づいていないふりをした。
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