第54章 小さな訪問者

ムスッ、とした顔で濡れた髪をタオルで拭いている🌸。紅潮した頰を左右から挟むと、プシュ、と間抜けた音が出た。
「っくく」
顔を逸して笑いを堪える。

「っほら！早く着替えてきてっ」
出かけるんでしょう！と🌸はシャンクスに背を向けた。
浴室でちょっと際どい所に触れたり、🌸の羞恥心を煽るような事を言ったりして誂ってしまったので、少し機嫌を損ねてしまった。
下着一枚で頭からタオルを被ったままのシャンクスが、脱衣所の洗面台からドライヤーを出すキャミソール姿の🌸に背後から抱きつく。

「🌸、」
払いもしないが返事もしない。
湿ったタオルを洗濯籠に放り、自分が被っていた乾いたタオルで🌸の髪を優しく包む。
「そんなに嫌だったか？」
わしゃわしゃと水気を拭くと、ほんのりと甘いはちみつの香り。
「嫌、というか...」
俯く🌸の顔を、肩越しに覗き込む。
「おでかけ、したかったから」
湯上がりも相まって、より紅潮する頬。
「その、シちゃったら...寝ちゃうから」
ああ、とタオルの上から頭を撫でる。

「🌸、イッたら気失っちまうもんなぁ」
「っ、あなたのせいですけどねっ！」
だからやなの！とタオルを払って髪に櫛を通す。


「いい香りだな」
しっとりとした髪を掬うと、より香り立つ。
「貸してみろ」
🌸の手から櫛を取り上げ、髪に通す。
「少し伸びたな」「うん、切るか悩み中」
ドライヤーの温度を確かめ、🌸の髪全体に温風を当てる。

乾いた髪に櫛を通す。
「柘植の櫛でも買ってやろうか？」
ちら、と上目に見上げる顔に微笑んで見せる。
「...いつかね」
少し、口もとを緩めて前を向いた🌸は、その言葉の意味を知っているらしい。

「ん、綺麗になった」
一房、掬い上げて口付けを落とす。

ほとんど乾き始めている赤髪をざっくりと乾かし、手櫛だけで整える。
「もう、ほら！少し屈んで」
大人しく少し身を屈めると、柔らかい手つきで整えられる。

「シャンクスこそ、もう少し頓着持ったら？」
髪を整えた流れで無精髭の輪郭をつ、となぞる。
「剃った方がいいか？」
口周りの髭を撫でる浅焼けした大きな手。
「キスする時、擽ったい」
なるほどな、と笑う頬に、少し背伸びをしてキスをした。