依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第53章 彼女の真実
「彼は、キラーさん」
🌸がソファのメモ紙を拾い上げた。
「年上なんだけど、キッド君とは幼馴染でいつも一緒につるんでた」
当時と変わらなかったな、と少し力の抜けた体を支える。
「偶然会って、彼のことを『許せないか』って聞かれたけど、私が許すなんて...傷ついたのはキッド君なのに」
お前だって傷めつけられているじゃないか、と温かい体を抱きしめる。
「キラーさんが、変わってなくて...彼の隣にいたときのままで...」
フラッシュバックの原因はそれか、と似顔絵を睨む。
「私のせいで、幼馴染の彼は大怪我したのに...」
再び震えだした身体と向かい合い、濡れた黒曜石の目を見つめる。
「🌸、お前は何もしていない」
ツー、と頬にできた筋を指先で拭う。
「もし、お前のせいだというやつがいたとして、そいつが何を知っている?
勘違いして噂を広めたやつにも、それを疑わなかった周囲も、その原因を作ったガキにも、お前を利用した奴らにも、🌸を傷つける権利なんかないんだ。
違うと訴える声に、聞く耳も持たない奴らに遠慮なんかするな。
お前には、ローがいただろう。🎀がいただろう。二人を頼ったか?甘えたか?」
それは、と俯いた顔を上げさせる。
「自分が傷つくくらいなら、他人を否定していいんだ。自分で乗り越えられない痛みなら、掬い上げてくれと手を伸ばしていいんだ」
ボロボロと溢れていく涙が、顔に添えた手に伝う。
でも、と濡れた頬に張り付く髪を払う。
「できなかったんだよな。自分の言葉が、真実が否定される事がどれだけ辛いか。お前は知ってるからな」
うぅと濡れた顔が歪む。
「自分の『真実』が、相手の『真実』なのかなんか、確かめる機会なんてそうない」
シャツの袖で拭う。
「自分が傷つかないために、他人を否定するなんて、お前はできないもんな」
必死に嗚咽を堪えようとしている唇を、けど、と撫でる。
「誤りを質すことは、否定じゃないんだ」
シャンクスの言葉に、うっ、え、と🌸の唇が戦慄く。
「キッドとかいうガキが、抵抗しないと決めて大怪我したことも、そいつの責任だ。お前じゃない」
袖口だけじゃ押さえきれなくなった涙を、ジャケットのポケットにあるハンカチで拭う。
偶然に、🌸と初めて出会った夜に持っていた物だった。