依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第52章 ふるえるココロ
仲居に配膳された水菓子に、🌸は果物好きだよな、と楊枝を手にした時、ポケットの携帯が鳴る。
相手方に断って席を立つと、中座が多いことを謝るセシル。
画面に表示されるナンバーが期待とは違ったことに、少しだけ浮ついた気持ちが一瞬で落ちていくが、連絡内容の見当がつかず、首を傾げながら耳に当てる。
お疲れ様です、という声に聞き覚えがあり、アメリです、と名乗る電話口に、なぜ医務室から?と要件を聞く。
少し言葉を選ぶように話す内容に、息を飲む。
すぐに向かう旨を告げ、お待ちしております、というアメリの言葉も最後まで聞かずに座敷へ戻る。
相手方に謝罪を入れ、上着と荷物を手に取る。
「すまん、身内の人間が倒れた」
突然のことに困惑している部下に後のことを頼んで、カーキーを預かる。
「あの、頭、酒飲んでますよ...?」
鍵を渡していいものか、と顔を見合わせる部下に、しまった、と舌打ちをする。
「俺っ!走らせます」
手を上げて腰を上げた一番若手の社員に、頼む、と頷く。
申し訳ない、と先方に頭を下げて早足に退室する。
景色のいい座敷は奥まったところにあり、車までの距離に舌打ちする。
後部座席へエスコートをかけようとした部下を運転席へ急かし、本社に戻るよう伝える。
(🌸っ)
まだ車が混み合う時間帯。
赤信号に捕まり、くそっ、と舌打ちをする。
チラ、とルームミラーを見た部下が、動き出した車の流れから外れた。
「抜け道使います。社屋の裏手でいいですか」
「ああ。頼む」
「最速で向かいます。」
裏道をかいくぐっていく車。
(🌸)
夜景が流れるサイドガラスに映る自分と睨み合いながら、なにがあったんだ、と、酒で上昇していた体が醒めていくのを痛感していた。
「着きます。」
「路肩でおろしていい。すまんが、車は地下に入れて、キーは上の警備員に預けておいてくれ」
「わっかりました!」
路肩の車寄せに停められた車から即座に降りると、自動のガラス扉が開くのもまともに待たず、半身に滑り込むように建物へ駆け込んだ。
エレベータの呼び出しボタンを連打する。
非接触タイプのそれをいくらとしたところでなんの意味もないのはわかっていたが、大人しくしていられなかった。
ポーン、と音を立てて開いたドアが開き切る前に「閉」ボタンをまた連打して、早く、とパネルを見上げた。
