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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第51章 慣れ始めた日常と刺さる記憶



 「キッドなら、ここにはいない」

キラーの言葉に、🌸はつまりかけた息をゆっくりと吐いた。
「そう、ですか」
動揺している🌸の様子に、キラーは腕を組む。
それだけで、ビクリと跳ねる細い肩が震えている。

「お前、変わらないな」
何が変わらないのかはわからないが、曖昧に笑って返す。

🌸がきつく握った買い物かごの中身に、キラーが目を向けた。
「家、近いのか?」
問いかけられるそれに、えっと、と少し口籠る。
彼の家に行くときだけ利用する駅中のスーパーは、🌸の部屋からは遠く、通勤の沿線上でもない。

口籠る🌸に、キラーは、俺は会社が近いから常連で、とかごを少し掲げる。
「会社?」
まさか、と目線を上げると南口出てすぐ、と駅に直結するビルとは別のところを指すキラーに、少し安堵する。

「小さな会社だが」
差し出す名刺をおずおずと受け取る。
シンプルなそれには「キッド商事」とある。
「オフィス家具なんかを扱っている」
複合機やOA機器とかと言って、そうだ、と手を打つ。
「どこに勤務してる?紹介してくれないか。契約先を広げたいんだ」
「あ、あの、すいません...そういうツテはなくて」
ごめんなさい、と言うと、そうか、と肩を竦める。

「すいません、役に立てなくて」
「いや、🌸が謝ることじゃない。なんというか、厚かましかったな」
「そんなことは...」
キラーと普通に話せたことに少し落ち着いた🌸は、ほっと息をつく。


「まだ許せないのか?」
その言葉に、ハッとかごを握る手が震える。
「🌸?」
「ゃっ」
ハラ、と手から落ちた名刺をキラーが拾った。
「どうし、」

俯いた🌸の頬に流れる涙にキラーが絶句していると、どこからか着信音が鳴る。
それは、キラーのジャケットのポケットからで、彼は🌸を気にしながら手に取った。
「どうした?」
仲間からの電話に対応しながら、🌸から目線は離さない。拾い上げた名刺を差し出してくる。
零れそうになる嗚咽を噛み殺し、名刺を受け取って震える声をなんとか絞り出す。

「ごめんなさい、失礼します」
引き留めようとするキラーの声を無視して店舗を出る。閉じかけた自動ドアを潜りかけたとき、人にぶつかった。
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