依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第8章 狩人の試行錯誤01
大丈夫か?と声をかけたが、唖然としている様子に(怖がらせたか)と心中で苦笑う。
(姉妹?にしては似てないな)
幾度か瞬きをして見上げてくる彼女の、透明度の高い瞳にドキリ、とした。
「ありがとうございました、助かりました」
そう言って、丁寧に頭を下げた。藤の香りの主は、こっち。
隣の背の低い彼女も慌てたようにそれに倣った。その左手の薬指にそれなりの稼ぎがなければ手が出せないであろう価格帯の指輪を見つけ、無意識に先程から気にかかる彼女の手の方を見てしまう。
(指輪は、ない)
その他の指や手首にも、男を思わせるような装飾はなく、少し目線をそらすと、路上に転がったバッグが目に入った。
それは、確かにさっきまで目の前の彼女が持っていたもの。腰を折って拾い上げると、蹴飛ばされたのか靴跡が残っていて、垣根の方に転がってしまったせいか土埃がついている。下手にこするとシミになるかと思い吐息で払ってみるが、所々に飛んだドロ汚れはそれでは取れそうになく、手持ちのハンカチを取り出す。
払う程度に、とバッグを持ちかえようとした手に白い指先がかかった。
ハンカチが汚れてしまう、という彼女に目を見開く。ハンカチは汚れを拭くためにあるものだ、と言うが、でも、と食い下がろうとする彼女に向き直る。
(こんなものか)
ぱっと見綺麗になったバッグを差し出し、話しかけてみる。
「まだそんなに遅い時間じゃないが、お嬢さん二人で出歩くにはちとオススメできない所だ。酒を奢ってくれる男を探しているなら別だが、心配する男がいるならなおさらな」
ソレ、と亜麻色の髪の彼女の薬指のものを示してみせると、二人はあ、と小さく声を漏らした。