依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第50章 Girls Talk

午前8時半を少し回った頃。
珍しくセシルとイヴが、まだ出勤していない。
アメリは、セッティングされていない給湯室のコーヒーメーカーに、セシルとイヴが淹れるコーヒーよりも少し値の張る豆をセットした。
会社の経費で買われるコーヒーも安い豆ではないが、アメリには少し酸味が強い。
執務室に戻ると、最近早めの出勤が多いシャンクスが機嫌良さそうにタンブラーのコーヒーを飲んでいた。
今日も朝のコーヒーは不要か、とほとんどネクタイを締めることがない彼を見る。
黒のワイシャツを羽織る下に着ている白のシャツは襟刳りが広く開いていて、首筋と鎖骨の根本が晒されている。
眼鏡越しにバインダーに挟まれた書類を見ながら、タンブラーを机に置き、首筋を掻く。
そこにあるものに、ハッとした。
捲れた襟から見える少し浅焼けているそこに、くっきりと赤。
搔いた手でシャツの襟を正すと、伸びた前髪を払う。寝癖のまま降りてくることも少なくないのに、今日はいつもよりも毛流れが整っている気がする。
「どうした、アメリ」
突然声をかけられて、はひっ!と上擦った返事をする。
「お、おはようございますっ!」
慌てて挨拶すると、なにか書き込んだ付箋を貼り付けたそれを書簡に放り込んだ彼は、酷く上機嫌に見えた。
机上に積み上がるバインダーを手に取ると、長い脚を組んで背凭れに体を預ける。
姿勢が変わったことで弛んだシャツの襟。浅く掛けた眼鏡越しに書面に目を通す彼に、しばし考えて歩み寄る。
きょろっ、と周りを見回し、誰もいないことを確認した。
少し見上げて、なんだ?と身を寄せてくる彼に、コソッと囁く。
「あの、見えてます」
ソレ、と指差すと、きょとん、としている彼。手持ちの鏡を差し出し、この辺り、と自身の首筋を指差す。
少し首を反らして鏡を見た彼が、ああ、と呟いてシャツのボタンを留める。
「彼女さんですか?」
むふ、と聞くと、笑って誤魔化そうとする。
「コーヒーショップにいた方ですか」
「気付いてたのか」
眼鏡越しに少し目を見開いて、タンブラーから一口飲んだ彼に、まあ、と頷く。
「お弁当持ってこられるようになったのも最近ですし」
ちら、と傍らの紙袋を見る。
タッパーだったのが、お弁当箱になっている。
「あまり他言しないでくれ」
事情ありなのだろうか、と姉の言葉が脳裏に浮かぶ。
少し考えて、あの、と歩み寄った。
