依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第8章 狩人の試行錯誤01
その日、自分の経営する会社の支店に顔を出すことになったのは偶々だった。
通常なら、全国にある支店を地区ごとに分けられたグループごとにチーフリーダーが付き、そこから報告を得るだけなのだが、取引先の中でも歴の長い某社が地方に本社を移すとかで、移転パーティーに呼ばれた。
今後、その会社とのやり取りに関わってくるであろう部下数名を引き連れて、見慣れた顔も多いパーティーにお付き合い程度に顔を出したら、あとはその場を部下に任せてそそくさと退散した。
一応はいち組織の長である自分がわざわざ地方に出向き、パーティーに出て終わりでは困る、と副社長様より傘下の現地視察もしてくるように言われ、日帰りする予定が泊りがけでの出張になってしまったので、あまり訪れる機会のない街を楽しもうと、ホテルから抜け出した。
土地勘もないが、歓楽街はどこも似たような感じで、夜は食べるよりも飲む方に全振りする生活なので、手頃な飲み屋にでも入ろうかと宛てもなく歩いていた。
眠らない街、という言葉がピッタリの喧騒の中をふらついていると、はっきりとした声が聞こえてそちらを興味を惹かれた。
「この子に触らないでっ」
男女のもつれか、ただのナンパか。
なんとなく目について、通りの向こうの事だったが足を止めた。
女性だということを考えても、そう身長は高くない。
誂いをかける男を、心底侮蔑するような目線で牽制している。
はっきりと嫌悪を示している彼女。
その後ろで恐怖に耐えるしかないもう一人。
通りを挟んでいるので表情や細かなやり取りまでは把握できない。
(おっと、)
通りの中央側。
先ほど腕を払われたにも関わらず、ニヤついているだけの男がヒップポケットを弄っている。
チラリ、と見えたソレが明らかに世の中には出回ってならない代物だと理解でき、歩行者天国になっている通りを横一文字にすり抜けた。