依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第46章 Heart Beat
ベックマンから渡された借用証書。
(まだ借金があったのか)と、気持ちが冷めていく。
同級生には、若い両親を羨ましがられたこともある。
けれど、近所の人から「両親が若いから」と余計なお世話もかけられたし、やはり、若いがゆえに無知な部分もあった両親を恥じたこともある。
特に顔つきの似ていた母とは、小学校高学年にもなれば身長もそう変わらなくなって、いつも姉妹に間違えられていた。
ニコニコと、母なんです、と否定する笑顔が嫌いだった。
父は、いつも仕事の用意や勉強をしていて、話しかけづらかった。
学校で書いた父の日や勤労感謝の日に向けた似顔絵や手紙を、「あ、うん、あんがと」とだけ受け取って読みもしない。
自分の誕生日の日だけ、ふたりとも🌸が帰ってくるより早く帰ってきて、母がコンビニのチーズケーキとフルーツを盛り付けたバースデーケーキを作ってくれた。
いつからかだろうか。パティスリーのホールケーキじゃないと落ち込んでいたのは。
作業着で帰宅した父が、「おめでとう」と差し出すプレゼントは、文具がほとんどだった。
おもちゃやヘアアクセサリー、ぬいぐるみや人形がいいと文句も言えずに受け取った。
父とは、中学生の頃からまともに話さなくなり、挨拶もしなかった。母から、誕生日の朝に「お父さんから」と渡される変わらない文具が嫌いだった。
きょうだいがいる🎀やロー。おかえり、と出迎えてくれる母が家にいる友人が羨ましかった。
授業参観に来てくれる父の格好に文句を言っている同級生に嫉妬した。
朝起きるとすでにいない両親。
運動会の日の朝。
リビングの食卓に置かれた500円玉でコンビニのおにぎりを買った。
両親と楽しそうに、美味しそうな弁当を食べているみんなの横を通り過ぎて、教室でひとり、泣きながら食べた。
中学の進路指導に、職場の作業着で来た母に小言も言った。
ろくに化粧もせず、ひっつめた髪もくしゃくしゃの姿が、きちんとスーツを着て髪も整えた他の母親と比べて、惨めに見えていた。
「リップはしてるよ?」と言う母を直視しなかった。
進路も碌に相談せずに就職先も決めて、家を出ると言った時。
「できるだけ治安がいい場所に住むのよ」と母。
「風邪引くなよ」と目も合わせなかった父。
それ以来、年始に出るまでしつこくかけてくる電話越しに数分話すだけになっていた。
