依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第42章 1,380円の恩義
飲み歩きしようとしだす姉を引き止め、じーっと凝視する。
「ワイルドイケメンの方はうちのボスだよ。社長様」
一緒に凝視する姉と、ドリンクをじゅー、と吸い上げる。
「へぇ?若ない?」「御年30のおっさんやで」
世の中の30歳に土下座しろ、とアラサーの姉に後頭部を叩かれた。
「おっ、まさか社内恋愛?」
「いや。た、ぶん見覚えない方」
はっきり顔が見えないので断定できないが、同じ秘書課の先輩でないのは確かだし、他の課にも見覚えがない。
一口ドリンクを飲んだ彼女の隣に座り、顔を覗き込んでいる。
「何?出歯亀すんの?」
ちょっとだけ、というと、姉は溜息をついた。
「彼氏が出張なの忘れて作っちゃったお弁当、食べてあげたでしょ」
その節はどうも、と言う姉。
そういえば、社長が初めて手作りのものを持参したのもその週だった。
セシル先輩はご乱心だったな、と社長は熱を上げている彼女の視線に気づきもしていなかったのを思い出した。
「あれ?ありゃりゃ?」
どうした妹よ、と言う姉を無視する。
(もしかもしなくても、お弁当作成者は、あの方?)
休日に最寄りではないショッピングモールに行く。
休憩にドリンクを買ってあげて、にこにこで頭を撫でる。
隣りに座って、心配そうに顔を覗き込む。
「姉御よ」「なんだい、妹よ」
優雅に足を組んで飲んでいる姉。
「先輩社員がラブってる上司に恋人がいることを知った場合、どうする?」
んー、としばらく考えて姉がカップを置く。
「先輩を取るなら助言する。上司を取るなら取引する」
「取引?」
言いふらされなくない仲かもしれないし、と足を組み替えた。
「『黙っておいてあげますよ?』ってこと?」
そう、と頷く姉。
「で、その彼女さんを取るなら見なかったことにする」
「え?」
再びカップを手に取って、ゴクリと飲む。
「隠したい、もしくは隠さなければならない仲という前提で、無くするものがでかそうなのは社長さんより彼女さんっぽいなら、誰にも何も言わない」
己のうちに秘める、と言い切った姉。
「姉さん、かっけぇすわ」
崇め給え、と踏ん反り返る彼女。
自分は、と再び目線をやった先に上司の姿はなかった。
(対価は1,380円ってことで)
ちょっと安いかな、と思ったけれどこれまでの差し入れや出張先からのお土産を考えたら黙っておくことくらい容易いことだった。
