依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第42章 1,380円の恩義
「えっと、季節限定のやつ2つ」
某コーヒーショップのカウンター。
(新しいバッグ買うつもりだったのに、最悪)
コソッと出て来ようと思ったのに、目聡い姉がバッグにしまおうとした優待券を取り上げて「レッドフォースのこと教えてあげたのは誰ぇ?」と3年も前の恩を振りかざしてきた。
(私の優待券、)
溜息をつくと、隣でオーダーしている声に聞き覚えがあって、顔を向ける。
「うわっ!社長だ、」
しまった、と口を覆う。怒られる?と思ったが、アメリじゃないか、といつものケロッとした笑顔。
「す、すいません。大きな声で」
「何だ、デートか?」
明らかに誂う声色に、まさかぁ、と手を振る。
「いやぁ、優待券を姉に見つかりまして...」
強制連行です、と目線を落とすと、ケラケラとした笑い声。
「社長でも、チェーン店のコーヒーなんて飲むんですね」
「飲む飲む。むしろ、普段は缶コーヒーだ」
主なやり取りは先輩がするので、会社で直接話すのなんて電話の取り次ぎくらい。
「1,380円になります」
向かいの店員の声に、細かいの、と財布を覗き込むと、カラン、とコイントレーに放られたカード。
「これで会計してくれ」「うえっ?!」
隣を見ると、すでにシンプルなコーヒーと紅茶がカウンターに置かれている。
「い、いいんですかっ⁉」
姉の分も入ってますけど、と瞬きが増える。
「たまには上司らしいことを、な」
ニッと笑って、店員から受け取ったカードと2つのカップを持つ。
「姉さんによろしくな」
「うえ、あ、はい!ありがとうございます!」
ひょい、とカップを持った左手を上げて店を出ていく。
「やべぇ、かっけぇ」
呆然としていたら、店員にカウンターからそれるように促されてしまい、慌てて横にずれた。
大きめのカップを手に姉の元に向かう。テラス席で頬杖をついて通りを眺めていた。
「おまちどー」
「めっさ美人見つけたー、って見てたらワイルドイケメン来て眼福なんだけど」
は?と目線の先を追う。
「おぉっふ!」「なに?あ、ありがとー」
目線の先には、姉がひょいと取り上げたドリンクをサラッと奢ってくれた我が社長。
振り返ってこちらに背を向けた女性が、彼の両手に持たれたカップの一つを受け取る。右手のカップに口をつけ、左手で女性の髪を耳にかけた彼が微笑んでいた。
