依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第41章 見落とした姿
ガラス戸の向こうに再び見えた姿。
自身の体で隠すように左手の人差し指がエレベータを指差す。
(向こうに行け、ってこと?)
立ち上がると、指先が下を向いた。エレベータに向かい「下」のボタンを押すと、ガラス戸を抜けてエレベータをスルーし、その先の「非常階段」と書かれた防火扉を抜けていった。
さっきの彼女が乗ってきたので、当階で止まっていた箱に乗り込む。
『1階ロビー』
すれ違いざまに背後から聞こえた声に従って、ボタンに指を伸ばす。触れる直前に光ったボタン。非接触タイプのそれに、おおー、と小さな声を上げて動き出すエレベータの掲示板を見上げた。
ポーン、と音がなって扉が開くと、正面入り口から一番離れた奥まった所。エレベータを降りると、タイミングを見計らったようにスマホが鳴る。
赤いロゴのアカウント。数文字だけ確認できる通知には-ロードパーキングの所-と表示されている。
人の出入りがある正面入口を出て、建物の横側に回る。
地下に入る車両出入り口を横目に、建物の裏側に入る一方通行を進む。
大通りから一本入った交差点のあたりに差し掛かると、赤のSUVが追い抜いていく。交差点先の路肩に止まるとハザードが光った。
一方通行の通路の右側に入って助手席に乗り込む。
「スパイみたいでドキドキするな」
運転席で子どもみたいな笑顔を見せるシャンクス。
「あのフロアに土日に来る奴はほとんどいないから、🌸と降りても構わないと思ったんだが、タイミング悪かったな」
髪を撫でる右手を掴み、ううん、と首を横に振る。
「シャンクスの会社の人なら、大丈夫」
ギュッと大きな手を握ると、ありがとう、と指を絡めた手の甲にキスをする。
「ほら、片手運転は危ないよ」
「んー、なんかもったいねぇなって」
何がもったいないの、と笑う顔を横目に見て、一度強く握り返す。
「んっ、」引き抜こうとした右手が抜けなくて振り払おうとすると、ケタケタと笑って一緒に手を振る。
「しょうがないなぁ」
少しだけ運転席側に寄って、繋がれた手を肘掛けに乗せると、よし!出るか、と機嫌のいい声を合図に車が走り出した。