依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第41章 見落とした姿

土曜日だというのに、出勤と同じルートを辿る。
(まさか、待合せを勤務先にされるなんて)
手元の携帯のメッセージを確認する。
-T.O.Gはわかるな。その前の広場に10時で-
わかるも何も、毎日のように通ってる、とセシルは無表情で携帯を眺めながら歩く。
電力供給や通信事業を生業とする会社を経営する彼と会うのは2回目。自尊心が高すぎて少々高飛車なのは気になるが、金払いはいいし、シャンクスとはまた違う意味で人目を引く。
早めについたので時間までどうしようか、とビルを見上げる。
(いるのかしら?)
ここから見えるわけもない彼の自宅を見上げる。
(まだちょっと時間あるし、)
バッグのICカードを確認してビルに入る。
通勤時と変わらないルートでエレベータが事務室前に着くと待合用のソファに人影があった。
(今日、土曜日よね?)
見慣れない顔に、いくらフレックスとはいえ土曜日に打ち合わせを入れるような人がいるだろうか、と不審がる。
チラ、と見やると目が合った。
会釈だけしあって、ガラス戸を抜ける。
コツ、とヒールを鳴らして執務室に入ると、一部だけ照明がついている最奥の席に影。
「社長!」「ん?」
デスクにかけて、パソコンを開いている。珍しく、外行きの私服だ。
「お疲れ様です」
誰かいるのだろうとは思ったが、まさか彼とは思わず、仕事をする素振りで椅子に鞄を置く。
「なんだ休日出勤か?」「あ、ええ、まぁ」
気になってる案件があって、と用もなくパソコンを立ち上げる。
彼が向き合うパソコンがピピッと短い音を立てる。
USBコネクタから機材を引き抜き、机上のメモにペンを走らせる。
「あまり根詰めるなよ。体調管理も仕事のうちだ」
メモから一枚破り取り、カードと共に上着の内ポケットに入れる。機材をしまった2つ上の引き出しから取り出したそれを、ほれ、と投げ寄越す。
慌ててキャッチしたのは、透明な包装紙に包まれたミントカラーの小さな飴。彼が時たま口にしているものだ。
お疲れ、と軽く手を上げて横を通り過ぎていく彼に、お気をつけて、と返す。お礼を言わなきゃと振り返って追いかけたが、ロックが掛かったガラス戸越しに見える待ち受けロビーには、彼の姿もソファに腰掛けていた人影も無くなっていた。
「シャンクス、」
いつも心なかで呼びかける名前を口に出すと、ありがとう、と呟いて手中のそれに微笑んだ。
