依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第39章 過去を知る人
困惑している🌸の髪に口元を埋め、きつく抱きしめる。狭い背中にピタリと胸を貼り付けて、横に流している脚に自分の脚を絡めた。
首元に埋めた鼻先で、ゆっくりと🌸の香りを吸い込むと、少し、落ち着いてくる。
(芍薬で見た顔じゃない。反応から見て、後をつけてきたわけではなさそうだ)
偶然だろうか。シャクヤクの様子から察するにその可能性が高い。
「🌸」
声をかけると、黒曜石の目が見上げてくる。
「付き纏われてるとかじゃないな?」
じっと、その瞳を見つめる。
まさか、と頭を左右に振る。
「警察の人だよ?
会ったのは火曜日だけ。
それに、昔からこの辺りでよく飲んでたし...
少し駅の方に戻ったところにある『マリン・コード』ってお店が行きつけで...
そういえば、今日あそこ定休日...」
店の名前に、確かにあそこは警察関係者のたまり場になってる、と見えない姿のある外に目線を移す。
「大丈夫?」
不安げに見上げる顔に、なにが、と問いかける。
「あ、ほらなんか、警察の人に、あんまり関わりたくないのかな、って」
「自ら警察に関わりたいやつなんているのか?」
「ど、うなんだろ?」
🌸が聞いたんだろ、とちょっと呆れた顔を見せて、外の気配に見線を向ける。
「🌸は、いいのか?」
「え?」
流石に気づくだろ、と外の者を顎で指す。
「あまりプライベートな事を知られるのは、好きじゃないだろ」
🌸の性格上、と付け加えると、一瞬揺らいだ瞳に安息が宿る。
気をつけて、と言うシャクヤクの声と引き戸が開け閉めされる音がして、スモーカーが退店したことを察する。
「スモーカーさんは、信用できる人だから」
ふっと力の抜けた体が寄りかかる。
ジワ、と宿るのは確かな嫉妬。
「返してなんか、やるもんか」
「え?」
彼女の中で、自分にはどれだけの信用があるだろうか。
既に、彼を超えるほどの安心を与えられているだろうか。
かさつく想いの分だけ、腕にギュウギュウと力を込めた。