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依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長

第39章 過去を知る人


週末。ふらりと街に出る。
ピークタイムを過ぎてもなお、煌々と光が漏れている店に入る。

「いらっしゃい。お一人?」
「ああ、まだいいか?」

どうぞ、と笑うのはタバコを咥えたエルダー世代の女主人。
カウンターに人はいないが、閉じられた座敷の前には男物と女物の靴が一足ずつある。

「ご注文は?」
「ビールと、適当につまめるものを」
はぁい、と突き出しの小鉢とコップを出して、瓶ビールの栓を抜く。
「お注ぎしましょうか?」
軽く会釈をして、コップを手に取る。
良い比率で継がれたビールを半分ほど飲むと、不意に、背後から声がした。


「シャッキーさん、同じもの2合でもらえますか?
あとゆ、ず酒...も...」
妙に語尾が伸びた声に、聞き覚えがあって振り返る。

「ス、モーカー、さん?」
「...🌸」

半分ほど空いた襖から顔を出す🌸と目が合う。
なぜ?の次に来るのは、確かな喜び。
珍しく飲んでいるのか、ほんのりと頬が赤い。
アルコールに強くない🌸が自ら酒を頼むのは、随分珍しい。

「🌸?」
奥からの呼びかけに、あ、と振り返った顔にかすかな焦りが見える。
まだ、鮮明に彼女の顔色の変化を覚えている。
どうした、という男の声に目線を上げた🌸につられて顔をあげると、細く開いていた襖が広く開いた。
膝立ちの彼女の後ろに立つ背の高い影。

「...赤髪」
「ん?」
つい口走った言葉に、男がこちらを見る。
次の瞬間には、奴の目線が明らかに警戒と疑惑を含んだものに変わり、足元に屈み込むような姿勢でいる🌸の頭を軽く引き寄せた。
キョロキョロと目線を泳がせる🌸。

しばらく、しん、と静まりかえる。

「...たしぎが連絡がほしいと待っている。
近く、連絡してやれ」
「あ、えっは、はい」
コクリ、と頷いたのを見て、カウンターに向き直り、背を向ける。カウンターの跳ね上げ天板から出て座敷へ向かった女主人が酒を運ぶと、ピタリと襖が閉じた。

瓶ビール一本とつまみを胃に収めると、早々に店を出る。
あの赤髪の反応が、自分と🌸との関係を知ってのものなのか、知らない上でのものなのかはわからない。

ただ言えるのは、当時の、今の自分よりも鮮明に、彼女を想う態度が表に出ているのは確かだった。
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