依々恋々-イイレンレン-@Shanks in 現代社長
第36章 謝罪の抱擁を
施錠されていない扉を開けると、部屋は真っ暗。
奥のリビングの雰囲気が異様で駆け込むと、ローテーブルの片端に倒れ込む🌸。
目の前の様に一瞬、止まった思考が理解する。
こちらを向いているのに、自分を映していない瞳にサッと血の気が引く。
「🌸っ」
靴のまま駆け寄って抱き起こした体。軽く頬を叩く。
「🌸!俺がわかるかっ」
つ、と一筋涙を垂らした虚ろな瞳に、ヒュー、と弱い口笛のような吐息。
(過呼吸かっ)
キスをして落ち着かせる、という方法も偶に見るが、あれは創作の迷信だと主治医に聞いたことがある。
「🌸!俺を見ろっ」
酸素の過剰摂取を抑えるために二酸化炭素を吸わせるために紙袋でもないかと辺りを見渡すが、片付いた部屋の中、手の届く範囲に見つからない。
腕の中で力ない🌸を抱き締めて、大丈夫、大丈夫だ。と、なんの根拠もない言葉を吐きながら髪を撫でる。
「一人じゃないっ落ち着けっ」
励ましの言葉もろくに浮かばず、思いつく言葉をただ口に出して、頼りない身体を擦る。
「大丈夫だ、側にいる」
落ち着け、と繰り返す言葉は、🌸の過呼吸に対するものなのか、自分に対するものなのか。
ヒュー、ヒュー、と繰り返されていた呼吸が静かになる頃には、暗く見づらい部屋にも目が慣れて、🌸の薄く開いた口から落ち着いた呼吸が聞こえてきた。
微かに震える唇を撫でる。
「しー、」
眠れ、と髪を撫でてやると、一瞬、柔らかく笑って目を閉じた。
すうすうと寝息に変わった呼吸に、項垂れる。
「よかった、」
ハァ、と溜息をつく。カツ、と床を蹴る音に、しまった、と靴を蹴り脱ぐ。
力の入ってない体を抱き上げ、カーテンをくぐる。
すのこの上できちんと畳まれている布団を脚で蹴り広げる。
そっとそこに下ろして、スカートのホックを外す。
ブラウスのカフスと、少し上体を抱き上げて手を回した背中のホックを外す。
衣服が少し緩むと、🌸がふう、と深く息をついた。
どれほどの時間だったろうか。
腕の時計を見ると、彼女に手を振ってから30分も経っていない。別れてすぐに症状が出ていたとして、発作時間は15分から20分程だろうか。
少し血の気が引いている🌸の頬を撫でると、携帯を取り出す。
幾度が続くコール音が途切れた。